連載1006 日本の「EV敗戦」濃厚か? 上海モーターショーが示す自動車の未来図 (中1)

連載1006 日本の「EV敗戦」濃厚か?
上海モーターショーが示す自動車の未来図 (中1)

(この記事の初出は2023年4月25日)

 

日本勢はいずれも新車販売で前年割れ

 今回の上海国際モーターショーには、日本からはトヨタ、日産、ホンダ、韓国からは現代自動車、ドイツからはBMW、ベンツなど、世界中から約1000社が参加し、最新のEVモデルを披露した。ただ、テスラは不参加。
 次に、モーターショーの状況を伝える時事通信の記事『中国、EV「主戦場」に 日本勢は正念場 上海モーターショー』(4月19日配信)を一部転載したい。
《EVの巻き返しに動く日本勢だが、中国のEV市場には米テスラとBYDの「2強」が立ちはだかる。》
《もっとも、日本勢の苦戦は鮮明だ。3月の中国新車販売台数は全体で前年同月比9.7%増だったものの、日系大手3社はいずれも前年実績を下回った。政府がNEV普及を国策として推し進める中、EV投入が遅れたことが最大の理由だ。天津に進出した日系部品メーカーに撤退の動きが出始めるなど、「中国市場で日本勢が巻き返せるかは分からない」(商社関係者)との声も出ている。》
《一方、中国EV大手のBYDはスポーツカータイプの新車種を公表。会場に報道陣があふれるほどの注目を集めた。中国メーカーは技術力の向上を背景に海外展開を加速させており、日米欧メーカーとの競争激化は必至だ。》

中国独特のクルマのカテゴリー分け

 中国でEVが急成長したのは、政府が補助金政策によって、強力に販売をサポートしてきたからだ。補助金政策は早く2009年から開始され、昨年いっぱいで終了した。しかし、販売台数の伸びとインフラ整備が同時に進んだため、EV市場の伸びに衰えはない。
 中国自動車工業協会は、今年の中国の新車販売台数を昨年より3%増の2760万台、そのうちEVを含むNEVを900万台(約30%)と予想してきた。しかし、これを上回る可能性もあるという。
 中国の自動車のカテゴリーは、欧米、日本とは違っている。中国政府は、長く悩まされてきた排気ガスによる大気汚染をなくそうと、「新エネルギー車」というカテゴリーを設けた。これが「NEV」(New Energy Vehicle)である。
 NEVには、BEV、PHEV、FCVが含まれるが、HBVは、「省エネルギー車」という別のカテゴリーにして区別されている。

日米欧に勝つためのEVサポート戦略

 中国は、このカテゴリー分けによって、日米欧に勝てる自動車産業をつくろうとしてきた。ガソリンエンジンという「内燃機関」(IEC:internal combustion engine、インターナル・コンバッション・エンジン)では、長い伝統を持つ日米欧に勝てないから、モジュール生産が可能なEVに的を絞ったのである。この政策が、いま実を結ぼうとしている。
 中国政府は、補助金以外にもEVを含むNEVにインセンティブを与えた。それは、ナンバープレートの交付を優先的に早くすること、走行規制を緩やかにすることなどだ。これに加えて、地方政府も補助金を出したため、EV市場は拡大の一途となった。
 昨年の中国の自動車市場におけるEVだけの出荷台数ランキングを見ると、シェア上位5社のうち4社が中国のメーカーである。1位はBYDで出荷台数が91万1000台,2位が唯一の外国メーカーであるステラで71万台である。
 そして、今年に入ってこの2社は、価格競争に入り、大幅に販売価格を引き下げた。
 テスラは、1月にセダンの「モデル3」とSUVの「モデルY」の販売価格を昨年より最大14%下げた。

最高級から激安まで4つのブランドを展開

 「7万8800元(約150万円)という価格を聞いたとき、耳を疑いましたね。これは、18日の BYDの記者会見で発表された新EVの価格です」と言うのは、前出の記者。
 この激安価格の新EVは、小型車の「海鴎」(カモメ)で、4人乗りハッチバック型。全長は3780ミリメートルと小型ながら、航続距離は305キロメートルを確保するという。
 いくら小型車とはいえ、日本円で約150万円では、どんなメーカーのEVも価格では勝ち目はない。昨年発売されたトヨタのEV「bZ4X」は最低価格が600万円である。
 BYDの広報は、この価格設定について、「私たちの潜在顧客の若い世代がターゲット。EVによる新たな体験を若年層にも届けたい」と述べたという。
 もちろん、低価格小型車だけではない。BYDは、最低販売価格が100万元(約1950万円)の高級ブランドから中級ブランドも含め4つのブランドシリーズを持ち、様々なEVの車種を揃えている。
(つづく)

 

この続きは5月24日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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