津山恵子のニューヨーク・リポートVol.21
言論封殺が起きている
戦争めぐり「ものが言えない」
いつになく不穏な年末だ。イスラエルとハマスの軍事衝突が続き、アメリカで親イスラエル派と親パレスチナ派の対立が表面化している。感謝祭パレード、クリスマスツリーの点灯式など機会をとらえては、親パレスチナ派が「停戦」を求めてデモを繰り広げる。
SNSやニュースも、対立する意見にあふれている。しかし、腑に落ちないことがある。「言論封殺」ではないかと思う事件が相次いでいるためだ。
女優スーザン・サランドンが11月21日、長年の所属事務所ユナイテッド・タレント・エージェンシー(UTA)から解雇された。先立つ17日、ニューヨーク市内のパレスチナ支持者による反戦集会で彼女はこう発言した。 「今多くのユダヤ人がユダヤ人であることを恐れている。この国でイスラム教徒であることがどのようなものかを味わい、暴力にさらされている」 これに対し、SNSで「反ユダヤ主義的」だと猛批判が起きる。その直後の解雇だった。UTAは理由を明らかにしていない。
また、昨年公開された映画「スクリーム」に出演していたメリッサ・バレラは同シリーズの最新作「Scream 7」から外された。米メディアによると、彼女はインスタグラムのストーリーにこう書き込んだ。「私はここ2週間ほどパレスチナ側のビデオや情報を積極的に探し、アカウントをフォローしている。なぜか? 西側メディアは反対側しか映さないから。なぜそうするのかは自分で推理してほしい。ガザは今強制収容所のような扱いを受けている」。
映画を制作しているスタジオは、「反ユダヤ主義や憎悪の扇動はいかなる形であれ認めない」と声明を出した。

米教育省は大学キャンパスでの集会などに規制の手を強めている。キャンパスは、歴史的に反戦や人権運動などの中心地だ。親パレスチナ、親イスラエルの集会は10月7日のハマスの攻撃から頻繁に起きた。
しかし、人権当局などは、ハーバード大やコロンビア大を含む大学、K12スクール(幼稚園から高校)での「反ユダヤ主義」「イスラム差別」「反アラブ主義」に関連するイベントを複数調査すると発表。教育省は、調査を踏まえて「提言」をまとめる。捜査に協力しなかった学校は、連邦からの予算を取り上げるという(CNNによる)。
議会下院はすでにハーバード大とペンシルベニア大の学長にヒアリングを行った。
これは、キャンパスにおける「言論封殺」である。言論の自由、集会の自由を謳歌してきたアメリカらしくない。こんなことがいつまで続くのか。デモなど物理的な事件とともに、市民が訴えたいことを言えない、そんな風潮が広がることが恐ろしい。

津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。
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