日本では「知らんけど」アメリカでは「Meh」
選挙の形骸化で崩壊する民主主義 (下)
(この記事の初出は2024年1月9日)
先進国で投票率トップはスウェーデン
それでは、世界各国の投票率はどうなっているのだろうか?
米国のピュー・リサーチ(Pew Research Center)が発表した2016年から2020年に行われた各国の国政選挙の投票率によると、有権者人口における投票率がもっとも高いのはトルコの88.97%、続いてスウェーデンの82.08%、オーストラリアの80.79%となっている。
このうち、トルコとオーストラリアは、法律によって投票に行くことが義務づけられている「義務投票制」を施いている。したがって、法律による義務がない先進国のなかでは、スウェーデンがトップということになる。
続くのが、韓国の77.92%、3番目はイスラエルの77.90%である。
この調査で日本は55.9%となっていて、G7では下から2番目である。なんとG7最下位はアメリカで、55.72%とわずかだが日本より低い。これでは、日本もアメリカも民主主義国家として世界に誇ることなどできない。
そこで、投票率を上げるために、「義務投票制」の導入と、「ネット投票」の採用が提唱されているが、この2つとも根強い反対がある。
投票しないのも「言論の自由」に含まれる
ではなぜ、「義務投票制」と「ネット投票」には反対の声が強いのか?
まず、義務投票制だが、投票は国連の『世界人権宣言』の第29条に「社会に対する義務」(”duties to community”)の1つとされているので、各国は導入してもいいはずである。ところが、導入したはいいが、オーストラリアのように正当な理由なく投票しなかった有権者に罰金(20オーストラリアドル)を課さないと、投票率はそう上がらない。
そのため、いったん導入したがやめてしまった国もある。
また、もう1つの大きな問題がある。
アメリカでは、以前から法学者らが義務投票に反対してきた。その理由は、義務投票は強制された言論行為であり、「言論の自由」(freedom of speech)を冒しているというのだ。なぜなら、言論の自由のなかには、話さない(not speech)自由も含まれるからというのである。
そのため、義務投票の弊害として指摘されているのが「ロバ投票」(donkey vote)だ。投票したい候補者がいないのに、テキトーに誰かに投票してしまう。あるいは、故意、冗談で支持していない候補者に投票してしまう。
こうした行為が多ければ、民意が反映されない可能性が強くなる。
(つづく)
この続きは2月9日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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