移民問題が大統領選挙の最大の争点に
このように見てくると、いまのアメリカにとって、いかに移民問題が重要かわかるだろう。ウクライナ戦争、イスラエル=ハマス戦争などは海外の問題であり、移民はすぐ隣にある問題なのだ。
調査会社ギャラップは、2月27日に公表した世論調査で、不法移民がアメリカにとって重大な脅威だと答えた割合は昨年の調査結果より8ポイント上昇し、過去最高の55%に達したと公表した。
また、ハーバード大学米国政治研究センターとハリス・インサイト・アンド・アナリティクスが、2月27日に公表した「大統領選挙などに関する世論調査」によると、バイデン大統領の最大の失策は、「開放的国境政策と歴史的移民流入の多さ」が44%と、最高割合を占めた。
政治情報サイト「リアルクリアポリティクス」(2月27日)の世論調査では、トランプが47.0%とバイデンの44.9%を2.1ポイントリードしている。この差は、移民政策の差と言える。
3月8日、「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、『米有権者、消えた移民法案の成立望む』という記事を掲載した。この記事は、「移民問題を最重要課題とする有権者の割合は20%に上昇し、経済など他のどの争点よりも上位にきている」ということを伝えていた。
トランプ有利だが、左右するのは無党派層
こうして、移民問題が最大の争点になった大統領選。はたして、バイデン、トランプのどちらが勝利するだろうか? 移民に対する姿勢からは、トランプが有利なのは間違いない。
日本の報道は、これまでは「もしトラ」(もしトランプが大統領になったら)が主流だったが、共和党のスーパーチューズデイがトランプの14勝1敗で終わると、「ほぼトラ」(ほぼトランプで決まり)に変わった。
しかし、トランプで決まりとするには気が早すぎる。なぜなら、予備選圧勝と言っても、それは共和党支持者だけの話で、アメリカの全有権者の話ではないからだ。
アメリカにはざっと見て、共和、民主のどちらにも与しない無党派層(nonpartisan voters)が、全体の約4割いる。しかも、大統領選といっても、これまでを見ると投票率は50%強ほどにすぎない。
つまり、いくら「バイデンvsトランプ」の対決といっても、無党派層やこれまで選挙に行かなかった層の投票行動によって、結果は大きく左右されるのだ。まして、「老々対決」(81歳vs77歳)でシラケムードにあるので、この先、なにが起こるかはわからない。
年明けまで決まらない大波乱の可能性も
共和、民主の2党以外の第3極を模索する動きもある。
超党派の政治集団「ノーレーベルズ」(No Labels)は、3月8日、オンラインで各州代表者の会議を開き、第3極の候補者擁立を進める方針を決め、14日に正副大統領候補の選定手続きを公表すると発表した。
また、ロバート・ケネディ・ジュニア(70、ロバート・ケネディ元司法長官の息子)は、無所属で立候補することを、すでに宣言している。
これら第3極は、「トランプを利するだけ」(中道左派のシンクタンク「サードウェイ」の共同創設者マット・ベネット)という見方もあるが、もう一つの見方もある。
それは、バイデン、トランプとも、第3極の躍進により、選挙人の過半数270人を獲得できない可能性があることだ。
もしそうなった場合は、規定により大統領は年明けまで決まらない。大統領の選出は、年明けに召集される新たな議会に委ねられるからだ。具対的には、下院において、50州の代表が1票ずつ投じ、26票を得た候補が勝利することになっている。
はたして、こんな大混乱が起こるのかどうか? いまのアメリカを見ていると、ないとは言い切れない。(了)

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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