大谷翔平スキャンダルでつくづく思う 日本はなぜスポーツベッティングを解禁しないのか?(中)

なぜ、世界各国で次々に解禁したのか?

 英国のブックメーカーは、ネット社会の進展に伴って、巨額のマネーを稼ぐようになった。日本に限らず、世界各国からの賭け金が集まってくるからだ。各国はこれを見過ごすわけにはいかない。自国マネーが流出してしまうのを止めなければならない。
 こうして、欧州各国は2000年代に入ると、ブックメーカーによるオンラインベッティングを次々に解禁するようになった。2006年イタリア、2010年フランス、2012年ドイツと順次解禁されていった。これらの国々は、自国のサッカーリーグの試合が賭けの対象とされ、その賭け金が英国に流れてしまうのだから、当然だろう。
 アメリカも2018年から、各州で次々と解禁された。それまでは、連邦法「プロフェッショナルおよびアマチュアスポーツ保護法」(PASPA:Professional and Amateur Sports Protection Act of 1992)で、ラスベガスがあるネバダ州を除き違法とされてきたが、最高裁が違憲判断を下してニュージャージー州が合法としたためだ。
 これを機に、現在まで全米38州で解禁されている。
 しかし、今回の大谷スキャンダルの発生地カリフォルニア州は解禁されていない。通訳の水原一平がギャンブリングを行なった業者は違法業者であり、日本で言えば「ノミ
屋」だ。彼らは組織犯罪と結びついていることが多く、合法業者と違って元金がなくともツケでベットできる。しかも、賭け金の上限はほぼない。

ヤミ市場の撲滅と税収増が目的の合法化

 前記したように、解禁しなければマネーは流出する。あるいは、違法業者(ヤミのノミ屋)に流れる。その額は全米で4000億ドル以上とされた。これは、ニュージャージー州による最高裁裁判のときに出てきた数字で、当時のレートで日本円にすると40兆円以上ということになる(ちなみに、日本のパチンコ・パチスロ市場は20兆円、公営競技は8兆円市場)。
 となると、ベッティングを合法化すれば、認可ブックメーカーは正式なビジネスとなるので、そこから税収が見込める。さらに、組織犯罪に結びつく違法業者を撲滅できることにつながる。
 要するに、「禁止してもムダ。合法化して、管理・課税するのが現実的」ということ。当初、NFL、NBA、MLBなどのプロスポーツリーグは反対していたが、途中から賛成に転じたのは、こうした現実的な判断のためだ。それに、スポーツベッティングが合法化によって盛んになれば、業者から収入を得ることもできる。
 こうして、解禁州では、ブックメーカーにライセンスを発行することになった。アメリカに続いてカナダも2021年から解禁し、これで、G7で解禁していないのは日本だけになった。

解禁後成長を続けるスポーツベッティング業界

 現在、アメリカの大手ブックメーカーの多くは、プロスポーツリーグと提携し、公式パートナーとなっている。
 たとえば、老舗カジノのMGMリゾーツが運営するスポーツベッティングとオンラインゲーミングの「BetMGM」(ベットエムジーエム)は、現在、MLBの公式パートナーである。
 また、仮想通貨と架空のスポーツチームを作成して参加できる「ファンタジースポーツ」(オンラインゲーム)を提供している企業「FanDuel」(ファンデュエル)は、昨年、MLBト複数年のパートナーシップ契約を結んでいる。
 解禁以後、アメリカのブックメーカービジネスは、一気に活性化、成長した。以下、アメリカの主なブックメーカー4社を挙げてみたい。現在、アメリカのスポーツベッティング業界は、まさに群雄割拠の状態で、この4社以外にさまざまなブックメーカーがしのぎを削っている。
 なんといってもいちばんに取り上げるべきなのは、「DraftKings」(ドラフト・キングス)だろう。2012年にボストンで設立されたスタートアップだが、オンラインカジノやスポーツベッティングはもとより、ヴァーチャルスポーツ(仮想スポーツ、ファンタジースポーツ)市場においては、アメリカで独占市場といってもいいぐらいのシェアを占めている。株価も上がり続けており。スポーツベッティングをするより、この会社の株に投資したほうが確実という評判を得ている。
 続くのは、「Penn National Gaming, Inc.」(PENN:ペン・ナショナル・ゲーミング)。ペンシルバニア州に本社を構え、全米16州とカナダで40以上のランドカジノを運営している。2020年9月から、オンラインでスポーツベッティングを開始し、順調に売り上げを伸ばしている。
 大谷のギャンブル依存症の通訳、水原一平はディズニー傘下のメディア「ESPN」のインタビューであらぬことを喋ったが、ESPNはスポーツメディア以外にスポーツベッティングの「ESPNベット」を持っており、これとPENNは昨年、長期パートナー契約を結んでいる。
 次は、「Caesars Entertainment, Inc.」(シーザーズ・エンターテイメント)。誰もが知るMGMと並ぶカジノホテルチェーンだが、英国ブックメーカーの最大手ウィリアムヒルを37億ドルで買収し傘下にし、スポーツベッティングに乗り出した。

この続きは4月25日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

 

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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