大谷翔平スキャンダルでつくづく思う 日本はなぜスポーツベッティングを解禁しないのか?(下)

違法ギャンブルから合法ギャンブルへ移行

 アメリカゲーミング協会(AGA:American Gaming Association)のレポートによると、カジノやオンラインベッティングを含むアメリカの商業ゲーミング業界の総収益は、2022年、史上初めて600億ドル(約9兆円)の大台を突破した。毎年、20%〜30%という高成長率を記録している。
 この成長にもっとも貢献しているのがスポーツベッティングで、なんと前年比72.7%増という驚異的な伸びを記録し、75億ドル(約1兆1200億円)を稼ぎ出した。
 ちなみに、稼ぎ頭のスロットマシンは、総収益の半分以上にあたる年間342億ドル(約5兆1300億円)で前年比5.1%増。2位のテーブルゲームは100億ドル(約1兆5000億円)で前年比13.9%増である。
 AGAのレポートは、この驚異的な収益増の大きな要因を、人々が違法なギャンブルに手を出さなくなったことだとしている。ただし、現在もなお違法ギャンブルへの支出額は莫大で、その額を年間5000億ドル(約75兆円)以上と推定。その結果、カジノの収益と各州の税収入に、それぞれ440億ドル(約6兆6000億円)と133億ドル(約1兆9900億円)の機会損失を与えていると試算している。

賭けの対象は試合の勝敗、スコアだけではない

 スマホでアプリを通して簡単にできることで、スポーツベッティングは、いまや若者たちに浸透している。Z世代、ミレニウム世代は、ネットゲームと同じように、スポーツベッティングを楽しんでいる。
 その最大の盛り上がりは、NFLのスーパーボールで、2023年は約5000万人がベットし、その額は160億ドル(2兆4000億円)を超えたと推定されている。
 いまのスポーツベッティングの主流は、試合を見ながら、たとえばスポーツバーなどで飲食しながらスマホから賭ける「ライブベッティング」である。
 ライブベッティングのメニューは、豊富に用意されている。試合の勝敗(どちらが勝つか)やスコア(得点、点差など)などは序の口で、たとえば野球なら、大谷の次の打席はどうなるか?①ホームラン〇〇倍、②ウオーク(四死球)〇〇倍、③三振〇〇倍、④その他〇〇倍といった具合だ。
 ともかく、試合中に起こるあらゆることが賭けの対象になる。サッカーなら、勝敗とスコアは当たり前で、最初にゴールを決める選手は誰か?試合中のイエローカードの数は何枚か?などにオッズが示され、それは刻々変化する。欧州であれほどサッカーが人気なのは、ほとんどのサポーターが賭けているからだ。
 水原一平は、今回の違法業者(illegal bookie)とやる前、合法のスポーツベッティングも相当やっていたはずだ。本人はESPNのインタビューで、MLBはやっていないと言っているが、常識的には信じられない。

民間業者はギャンブルの胴元にはなれない

 ほぼあらゆる取引がオンラインでできるようになったこの時代、日本でもブックメーカーを解禁すべきだということは、これまで何度も言われ、いまも経済産業省などが検討している。
 しかし、ギャンブル(賭博)は、いまも刑法185条1などにより不法行為とされている。競馬、競輪、競艇、オート、サッカーくじ(スポーツ振興くじtoto)、宝くじは、それぞれを規制する特別法を根拠として、公営競技としてだけ施行が許可されている。よって、民間業者がギャンブルの胴元(バンカー、ブックメーカー)なることは、リアルはもちろん、ネットでも禁止されている。
 カジノ解禁の動きを見ても、日本人はギャンブルに対する忌避感が強い。アメリカはピューリタンが建国した国だから、日本以上にギャンブルに対する忌避感が強いが、それでも現実重視、経済重視でカジノを公認し、いまやオンラインベッティングも合法化した。
 私はかなり以前から、カジノ解禁、ブックメーカー解禁を唱え、それを記事や本にも書いてきたが、これまでほとんど無視、異端視されてきた。

この続きは4月29日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

 

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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