「神の下にすべての人間は平等」という理念
それまで、奴隷だった黒人に「市民権」を与える。そのための修正条項であり、それまで人間として扱われてこなかった奴隷でも、アメリカで生まれればみな市民にするということなのである。
アメリカは「神の下にすべての人間は平等」という理念でできた国である。この大原則は変えられない。したがって、大統領令ではこの条項を無効にできないとなる。
ここで言う「市民」(citizen)とは、厳密な意味では「市民権」(civil right)を有する国民とは異なる。黒人に市民権が与えられたのは、1960年代のキング牧師に市民権運動後のことである。
つまり、憲法修正14条が言う「市民」とは、単に一般のアメリカ国民、つまりアメリカ国籍保有者ということだ。この憲法修正14条により、黒人奴隷はアメリカ人となった。そして、現在、人種民族を問わず、アメリカで生まれれば誰もがアメリカ人なのである。
カナダもまたアメリカと同じ問題に直面
不法移民をすべて追い出す。力づくでもそれをやる。それがトランプの至上命題である。はたして1100万人もいるという不法移民を、物理的に追い出せるどうかはともかく、これを目指さなければ、トランプはトランプでなくなる。
そのためにはなんとしても、出生地主義をやめるというのが、トランプの考えだ。そうしなければ、合法移民を含めて、次から次にアメリカ国籍を持つ子供が生まれ、そして育ち、将来、アメリカは「白人支配国家」ではなくなってしまう。トランプは、それを恐れている。言ってみれば、「将来恐怖症患者」かもしれない。
じつはカナダも、この大問題に直面していて、すでに西海岸のバンクーバーは中国人の街と化してしまっている。とくに、バンクーバー近郊のリッチモンドは完全なチャイナタウンとなっている。
そのため、ブリティッシュ・コロンビア州では、保守党が、「親の1人がカナダ市民またはカナダ永住者でない限り、子供にカナダ国籍を与えない」という法律を制定することを主張している。
国よってつくられる「日本人=日本国籍保有者」
日本は、ほぼ日本人という単一の民族が暮らす国である。血統主義によって外国人は受け入れないようになっている(抜け道はあるが)から、トランプの主張にピンとこない人も多いと思う。
しかし、最近は、日本に住んでいるからといって、みんながみんな、「日本人=日本国籍保有者」というわけではなくなった。
現在の日本には約300万人の外国籍の人間がいるし、わずかだが人無国籍の人間もいる。また、二重国籍者もいる。私の孫は二重国籍である。
そこで、思うのは、国民とは国家の法律によってつくられるということ。そこに住んでいる、同じ親から生まれたなどということを超えて、国民はつくられるということだ。そして、それをつくってきたアメリカが、いま、それをやめようとしている。トランプにとっては、多様性など「クソ食らえ」である。
はたしてこれでいいのか? そして、われわれ日本人、そして日本という国はどうすればいいのか? 少子高齢化で日本人がどんどん減っていくいま、真剣に考えるべきだろう。(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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