「アメリカを暗号資産の首都にする」と豹変
トランプが「トランプ1.0」のときと比べて、コロッと180度変わったことがある。それは、暗号資産、あるいは仮想通貨(=クリプトカレンシー)に対する見方、態度を豹変させたことだ。
今回、大統領に返り咲くやいなや、自身のミームコインの「トランプコイン」、夫人の「メラニアコイン」などを大量に発行して数億ドルの荒稼ぎをしている。また、ファミリー企業でビットコインビジネスに乗り出し、こちらでも巨額の投資資金を集めている。
第1次政権では、トランプは暗号資産に対しては否定的だった。トランプはビットコインを「これは通貨ではない。ただの詐欺だ。本当の通貨はドルだけだ」と、まったく取り合わなかった。
それが、どうだろう。「トランプ2.0」を目指す大統領選中に、「アメリカを暗号資産の首都にする」とまで言い出した。そして、当選するや、ビットコイン懐疑派の米証券取引委員会(SEC)のゲーリー・ゲンスラー委員長を解任するとし、実際、ゲンスラーは大統領就任式当日に自ら退任した。
こうしたトランプの豹変により、ビットコインなどの暗号資産は爆騰した。
ビックテックの意向を汲んで自身も金儲け
さる5月27日から29日、ラスベガスのホテル「ベネチアン」で「ビットコイン・カンファレンス」が開かれた。トランプは姿を見せなかったが、副大統領のJDヴァンスが登壇して、ビットコイン爆騰の成果をアピールした。
なぜ、トランプは暗号資産への態度を変えたのか?
それは、イーロン・マスクやJDヴァンスの支持者であるピーター・テールらビックテック業界の大物たちの意向だからだ。彼らは、選挙で苦戦中のトランプに多額の寄付を行った。とくに、イーロン・マスクは、トランプ支持者に毎日100万ドルを配り、トランプのスーパーPACには1億5900万ドルを寄付した。
要するにカネによってトランプは考えを変え、なおかつ、ファミリー企業をビットコインビジネスに参入させた。その一例が、次男エリック・トランプが率いるベンチャー「アメリカン・ビットコイン」が、マイニング会社を買収したことだ。この会社はナスダック上場目前で、上場すれば巨額の利益を生む。
「GENIUS法案」で暗号資産の価値上昇
「フォーブス」誌の記事(経済ジャーナリストでシニア・エディターでのダン・アレクサンダーの執筆)によれば、暗号資産はこの1年でトランプの資産を約10億ドルも増やしたという。それは、トランプが所有するトランプタワーやゴルフ場、別荘のマール・アラーゴなどの不動産の合計価値を上回るという。
連邦議会上院は、この6月17日に通称「GENIUS法案」というステーブルコインに関する規制の枠組みを定める法案を可決した。これにより、暗号資産業界はウケに入ることが確実になった。
ステーブルコインは、暗号資産の一つだが、法定通貨や資産と連動するように設計されている。つまり、この法案により暗号資産は、ドルと連動して資産が保全される。
これにより、ビッグテックはもとより、多くの企業が金融大手と組んでステーブルコインを発行できることが可能になり、決済などに使えることになった。
つまり、暗号資産の価値はますます高まったのだ。まさに、アメリカは暗号資産を持つ富豪たちの天国になるだろう。
【この続きは7月25日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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