
なんとなくおかしい気がずっとしている。NY 株も日本株もなにがあろうと上がり続けていることだ。上がるということは、市場参加者の多くが買い続けているということだが、買う材料がそんなにあるのだろうか?
FRBは今度のFOMCで0.25%の利下げをするという。しかし、それはすでに織り込み済みだ。そんなことより、トランプ関税がじわじわと利いて、アメリカも日本も景気が後退し、企業業績も落ち込むことはほぼ間違いないのに、なぜ上がるのか。
実体経済と金融市場は関係ないと言ってしまえばそれまでだが、どうも納得がいかない。このままいくと、クリスマスまでにNY 株も日本株も5万ドル5万円になることになるが、本当にそうなるのか?
■トランプ関税で景気が悪化するなかの株価上昇
何度も書いているが、私は投資家ではないので、株価がどうなろうと知ったことではない。ただ、景気が悪化して世の中が暗くなるのは歓迎できない。これ以上物価が上昇して、暮らしが貧困化するのには耐えられない。
だから、もし株価が景気を反映しているなら、現在の史上最高値を更新する状況は歓迎すべきことになる。なぜなら、景気がいいということだからだ。
しかし、景気はいいだろうか? いいはずがない。肌感覚でもそう思う。数値を見れば一目瞭然だが、いまの日本の景気は少しも良くないうえ、物価は上がり続けて消費は減退している。アメリカもトランプ関税がじわじわと利いて、景気後退局面に入るのが確実視されている。
はっきりしているのは日米ともに、トランプ関税により物価上昇、インフレが続くということ。そして、このインフレに賃金上昇が追いつかなければスタグフレーションになるということだ。
■日米ともにスタグフレーションになっている
すでに、日本は実質賃金が長期にわたって下落している。これは明らかにスタグフレーションであり、すでにスタグフレーションは常態化している。
そして、この秋は、市場空前の値上げラッシュで、この状況はさらに悪化するだろう。
アメリカも、今後はスタグフレーションになると、大方の専門家が言っている。それなのに、FRBのパウエル議長は、トランプの圧力に屈して、利下げを示唆した。FRBは今度のFOMC(9月19日)で0.25%の利下げをするという。
最近、ムーディーズ・アナリティックスのマーク・ザンディ首席エコノミストは、リンクトインに、次のような投稿をしている。
「関税引き上げと移民規制がインフレ率を押し上げ、経済成長を阻害しているため、経済はスタグフレーションの兆候を見せている」
■NVIDIAだけを見てほかの要素は全部無視
トランプが、4月に「解放の日」だと称して世界を相手に相互関税を発表したとき、株価は大幅に下げた。NY株も日本株も下落。そのほかの市場も下げて、「世界同時株安」に陥った。
しかし、その後、トランプが「TACO」(Trump Always Chickens Out:トランプはいつもビビってやめる)を繰り返したため、株価は回復。6月下旬には、NY株も日本株も市場最高値を更新した。
トランプの上乗せ関税は8月7日を持って発動されたが、このとき株価はまったく下げず、その後、今日まで高値を続けている。
NY株価について言うと、どう見てもAI関連のハイテク銘柄、とくにNVIDIAが1本やりで押し上げている。日本株はいつも通りNY株につられて上がっている。
つまり、株式市場参加者はこの点だけを見て、ほかの要素は全部無視しているようにしか思えない。
この続きは10月9日(木)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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