トランプがアメリカ大統領でいる限り、この世界はどこに向かうのかまったくわからなくなった。中国にはあれほど強硬だったのに、いまや腰砕け。プーチンの肩を持ち続けてきたのに、突如、「ロシアは張り子の虎にすぎない」「ウクライナは勝てる」と言う始末。
いったい、この180度転換はなぜ起こったのか?
先の国連演説を聞けば、もはやトランプは「TACO」すぎて、つけるクスリがないのがわかる。

©︎White House Official Photo
■突如として中国人留学生60万人受け入れ発表
ついこの間まで、中国の学生たちはアメリカ留学を完全に諦めていた。トランプが留学生ビザの条件を厳しくし、とくに中国人留学生に関してはビザの取り消しを行ってきたからだ。
それが8月26日、突如として、中国人留学生を60万人受け入れると発表したのである。その理由として挙げられたのが、中国人留学生がいなければ、大学経営が厳しくなるということだった。
これを知って、一部の学生たちは歓迎、さっそく手続きに入った。しかし、まだ多くの学生たちは半信半疑である。
というのは、トランプの「TACO」「Trump Always Chickens Out:トランプはいつもビビってやめる」ぶりが知れ渡っているからで、またいつ変節するかわからないからだ。
■60万人は留学生倍増計画?口からでまかせ?
トランプが挙げた「60万人」という数字は、驚くべきものだった。なぜなら、2023~2024年にアメリカに留学した中国人留学生は約27万人で、60万人というのはその2倍以上の規模だからだ。
となると、これは中国人留学生倍増計画ということになり、とても信用できるものではない。これまで何度も繰り返された「根拠なきフェイク」、「口からでまかせ」の可能性も否定できない。
さらに、この措置は、中国人留学生だけだ。2023~2024年のインドからの留学生は中国人留学生より多い約33万人なのに、インド人留学生への免除措置はいまのところ講じられていない。
とすると、中国と継続中の関税交渉をリードするための方策の可能性もある。
■同盟国、友好国には厳しく中国には大甘な関税
トランプは以前から「対中強硬派」(Dragon Slayers:ドラゴンスレイヤー)だった。支持基盤の「MAGA」派も、徹底した中国排除派だった。
だから、これまで手を変え品を変え、中国の力を削ぐ政策を実行してきた。その最大の目玉が、対中追加関税145%である。これに対して中国主席、習近平は報復関税による対抗措置を取り、その結果、トランプは「腰砕け」になった。
その後の協議で、対中相互関税を125%から34%に引き下げ、さらに国・地域別関税率24%の適用を11月10日まで延期してしまった。
日本をはじめとする同盟国、友好国には、ほとんど譲歩せずに重関税を課しながら、中国には「大甘」な対応を繰り返す。まさに、「TACO」そのものだ。
■「ティックトック」買収の不可解な経緯
中国発の動画共有アプリ「TikTok」(ティックトック)のアメリカ企業への売却と「NVIDIA」 (エヌビディア)の半導体の対中輸出禁止は、安全保障上、アメリカの中国封じ込め政策にとって絶対に譲れないものだった。
しかし、どちらも関税と同じく「大甘」に終わった。
1期目のトランプ政権は、ティックトックの禁止を目指し、バイデン政権は昨年4月に、ティックトックのアメリカ事業の売却か停止を迫る法案を成立させた。
ところが、トランプは今年1月に施行されたティックトック法案の執行を4回も延期し、8月にはホワイトハウスの公式アカウントまで開設した。そして、最近になってようやくアメリカ企業への売却を成立させたのだ。
この決定は、習近平との電話会談の後で、発表された。また、売却先の企業・投資家連合のトップはIT大手オラクル会長のラリー・エリソンで、彼はトランプと昵懇の人物だ。エリソンは80歳を超えてますます野心を燃やし、いまやメディア王を目指している。
ティックトックはアメリカに約1億7000万人のユーザーがいるとされ、2024年の大統領選では、トランプがZ 世代の票を集めるうえでの有力なツールとなった。
結局、対中安全保障よりもカネと票を優先したとしか思えない。
この続きは10月23日(木)に掲載します。
本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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