2025年10月30日 NEWS DAILY CONTENTS

“超加工食品=悪” は本当なのか、極端な健康志向が生む「落とし穴」とは

健康的な食生活の大敵とされる、超加工食品(Ultra Processed Foods=UPFs)。しかし超加工食品を敵視しすぎることによる弊害もある。非営利の独立系ニュースサイト、カンバセーション(The Conversation)は27日、今年公開された超加工食品をテーマにした番組を基に、この問題について考察している。

手軽に空腹を満たせるカップ麺も超加工食品。「食べた後、罪悪感を感じる」という人も少なくない。写真はイメージ(photo: Unsplash / Markus Winkler)

ジョー・ウィックスが制作した2025年公開のドキュメンタリー番組「キラー・プロテインバー」は、食品への関心を高めようとした試みだったが、その手法は栄養学の複雑さを単純化しすぎているとの批判を呼んでいる。番組の狙いは「危険で添加物だらけの超加工食品」を作り、社会的議論を促すことだった。しかし、「加工食品=危険」という単純なメッセージは科学的根拠をゆがめ、人々の混乱を深めてしまう恐れがある。

超加工食品への恐怖をあおることは、しばしば心理的抵抗と反発を引き起こす。「加工=悪」という考え方は罪悪感や不安、摂食障害を助長し、特に低所得層に広く消費されている食品への偏見を助長する。

さらに、世界保健機関(WHO)が指摘する「インフォデミック(誤情報の氾濫)」の中で、栄養学はSNS上で最も誤情報が多い分野の一つとなっている。2023年の調査では、オンライン上の食事アドバイスの多くが科学的に不正確であることが確認されている。超加工食品と病気の関連を示す研究の多くは、質が低い観察データに基づいており、「因果関係」を証明するものではない。

なぜ加工食品論争は本質を見失っているのか

加工食品と健康被害の関連性を示す証拠は決定的とは程遠い。系統的レビューによれば、加工食品と疾病の関連性を報告する多くの研究は、低品質あるいは極低品質と評価された観察データに依存している。これは加工食品が疾病を引き起こすことを証明できないことを意味する。最新の研究レビューでは、食事と疾病の関連性を評価する際に「加工食品」というカテゴリーは科学的価値をほとんど加えないと結論付けられている。

「超加工食品」という言葉にも問題がある。この概念を初めて導入したNOVA分類は、食品の道徳的評価ではなく研究枠組みとして意図していた。しかし時を経て、「良い」食と「悪い」食を区別する簡略表現として再解釈されるようになった。 また、「砂糖は毒」「ビッグフードが人々を中毒にしている」といった感情的な言葉は、科学への不信感を強めるだけでなく、真の課題である健康的で持続可能な食の開発や、世界的な栄養問題、気候変動への取り組みを困難にする。

政府でさえ、食の問題を社会経済政策ではなく食品加工そのものに帰する単純化された物語に影響されかねない。批判派は、加工食品禁止を巡る政治的議論が、健康食品を手頃な価格で入手可能にする真に意義ある改革から注意をそらしてしまうと主張する。

栄養学は複雑で、その知見は徐々に進化する。加工食品反対論が支持を集めるのは、明確な答えを求める世の中で確かな結論を提供するためだ。しかしこの傾向は、一般市民の誤った情報に対するバリアを脆弱にする。予備的な研究結果をセンセーショナルな見出しに変える手法は、常に健康産業を潤してきた。書籍が売れ、ブランドが築かれ、オンラインのフォロワーが増えるというわけだ。

言葉の呪縛から離れ、科学的根拠と公平性に基づく議論を

食の未来を切り拓くには、「加工」という言葉に過剰な恐怖を抱くのではなく、エビデンスに基づいた教育と公正な食品政策が欠かせない。低所得家庭にとって加工食品は、安価で安定したエネルギー源でもある。保護者が複数の仕事を掛け持ちしている家庭にとって、朝食シリアルが「超加工」と批判されることよりも、手ごろで栄養のある食品を得られることの方が重要だ。

食に関する正確で信頼できる情報は、資格を持つ専門家によって発信されるべきである。人々が安心して選択できる社会を作るためには、恐怖ではなく理解を促す対話が必要だ。私たちは今こそ「超加工食品」という言葉の呪縛から離れ、科学的根拠と公平性に基づく議論を進めるべきである。

                       
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