■「国際化」が言われた希望に満ちていた時代
ここで私が思い出すのは、やはり、バブル経済の全盛期、1980年代である。当時、盛んに「国際化、国際化」と言われ、日本人は国際化し、もっと世界と交流し、「国際人」になるべきだと言われた。
国際化が具体的になにを指すのかは漠然としていたが、大学には「国際学部」が次々に誕生し、英語教育の重要性が叫ばれた。
海外旅行ブームが起こり、学生もOLもこぞって海外のパックツアーに出かけ、サラリーマンはモーレツ社員となって、海外に赴任していった。
バブル経済は崩壊したが、冷戦が終了したことで、世界はワンワールドとなり、グローバリゼーションが進んだ。この国際化のトレンドもあって(本当は従姉妹に勧められ)、私は1人娘をインターナショナルスクールに入れ、その後、アメリカ、中国に留学させた。
日本経済も円も強く、希望に満ちた時代だった。
しかし、いまはどうか?
まったく違う時代を私たちは行きている。知らず知らずのうちに日本はガラパゴス化し、国際人材など育たず、若者たちは海外に出ることなく、国内しか知らずに育っている。
■日本で生まれ育っただけでは日本人になれない
いまの保守化、右傾化した若者たちは、いまだに「日本人はすごい」「日本はすごい国」ということにすがり、必死に自己防衛をしている。中国にも韓国にも抜かれ、本当はプライドが傷ついているのに、それを隠して、外国人排斥を主張している。
しかし、彼らは、日本の本当の良さ、日本人の素晴らしを知らない。さまざまな経験をへて、私が行き着いたのは、日本が低迷・漂流するのは自分たちが何者か、日本はどういう国かを知らないからだと思うようになった。
その意味で、いまの若者たちの保守化、右傾化は、本当の保守化、右傾化ではないと思う。なぜ、私がそう思うのか?
それは、日本人の両親から生まれ、この国で教育を受け、この国で育てば、自然に日本人になると誰もが信じているからだ。だから、日本人なら、当然、保守的になる。それが当たり前だと思っているのが、いまの若者たちである。しかし、この考えは間違っている。
日本で生まれ育っただけでは、本当の日本人にはなれない。
■インド生まれのキップリングが残した言葉
名作『ジャングルブック』を書いた作家ラドヤード・キップリングは、こう言っている
“What do they know of England, who only England know?”(イングランドのことしか知らない人間が、イングランドのなにを知っているというのだ)
キップリングは、英国の植民地だったインド生まれの英国人である。しかも、世界中を旅して歩き、『ジャングルブック』はアメリカのバーモント州で暮らしていたときに書いた。
つまり、自国以外の歴史、文化、伝統、社会を知らないで、英国がなにかなどと語ることはできない、英国人が誰であるかなどと語ることはできないと、彼は言ったのである。
たしかに、英国から一歩も出なければ、英国の良さも欠点もわからない。
■日本は中国とは一線を画した1つの独立した文明
すべての物事は、ほかと比較して初めてなんだかわかる。つまり、国内だけで育った人間には、本当の意味での愛国心は育たない、人間は生まれ育った環境と社会に強い愛着を持つ。しかし、その愛着は外の世界を知って初めて強く意識され、その結果、健全な愛国心が育まれる。
健全な保守とは、そういうものだ。
しかし、いまの日本に蔓延しているのは、不健全な保守、不健全な右傾化である。これに立脚した高市政権が、この国を立て直すことは、本当に難しい。
日本はガラパゴスであってはいけない。世界中に窓を開いたオープンな国でなければいけない。こんなユニークな文化が、移民や外圧、間違った経済政策などで失われることなどけっしてない。
サミエル・ハンチントンは、日本をわざわざ中国文明と一線を画して「日本文明」として1つの独立した文明に分類した。日本とは、そういう国である。(了)
【読者のみなさまへ】本コラムに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、
私のメールアドレスまでお寄せください→ junpay0801@gmail.com

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
RECOMMENDED
-

客室乗務員が教える「本当に快適な座席」とは? プロが選ぶベストシートの理由
-

NYの「1日の生活費」が桁違い、普通に過ごして7万円…ローカル住人が検証
-

ベテラン客室乗務員が教える「機内での迷惑行為」、食事サービス中のヘッドホンにも注意?
-

パスポートは必ず手元に、飛行機の旅で「意外と多い落とし穴」をチェック
-

日本帰省マストバイ!NY在住者が選んだ「食品土産まとめ」、ご当地&調味料が人気
-

機内配布のブランケットは不衛生かも…キレイなものとの「見分け方」は? 客室乗務員はマイ毛布持参をおすすめ
-

白づくめの4000人がNYに集結、世界を席巻する「謎のピクニック」を知ってる?
-

長距離フライト、いつトイレに行くのがベスト? 客室乗務員がすすめる最適なタイミング
-

機内Wi-Fiが最も速い航空会社はどこ? 1位は「ハワイアン航空」、JALとANAは?
-

「安い日本」はもう終わり? 外国人観光客に迫る値上げラッシュ、テーマパークや富士山まで








