2025年11月21日 COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

山田順の「週刊:未来地図」 高市政権は日本をますます弱体化させる!なぜ、若者は「右傾化」し「内向き」になったのか?(完)

■「国際化」が言われた希望に満ちていた時代

 ここで私が思い出すのは、やはり、バブル経済の全盛期、1980年代である。当時、盛んに「国際化、国際化」と言われ、日本人は国際化し、もっと世界と交流し、「国際人」になるべきだと言われた。
 国際化が具体的になにを指すのかは漠然としていたが、大学には「国際学部」が次々に誕生し、英語教育の重要性が叫ばれた。
 海外旅行ブームが起こり、学生もOLもこぞって海外のパックツアーに出かけ、サラリーマンはモーレツ社員となって、海外に赴任していった。
 バブル経済は崩壊したが、冷戦が終了したことで、世界はワンワールドとなり、グローバリゼーションが進んだ。この国際化のトレンドもあって(本当は従姉妹に勧められ)、私は1人娘をインターナショナルスクールに入れ、その後、アメリカ、中国に留学させた。
 日本経済も円も強く、希望に満ちた時代だった。
 しかし、いまはどうか?
 まったく違う時代を私たちは行きている。知らず知らずのうちに日本はガラパゴス化し、国際人材など育たず、若者たちは海外に出ることなく、国内しか知らずに育っている。

■日本で生まれ育っただけでは日本人になれない

 いまの保守化、右傾化した若者たちは、いまだに「日本人はすごい」「日本はすごい国」ということにすがり、必死に自己防衛をしている。中国にも韓国にも抜かれ、本当はプライドが傷ついているのに、それを隠して、外国人排斥を主張している。
 しかし、彼らは、日本の本当の良さ、日本人の素晴らしを知らない。さまざまな経験をへて、私が行き着いたのは、日本が低迷・漂流するのは自分たちが何者か、日本はどういう国かを知らないからだと思うようになった。
 その意味で、いまの若者たちの保守化、右傾化は、本当の保守化、右傾化ではないと思う。なぜ、私がそう思うのか?
 それは、日本人の両親から生まれ、この国で教育を受け、この国で育てば、自然に日本人になると誰もが信じているからだ。だから、日本人なら、当然、保守的になる。それが当たり前だと思っているのが、いまの若者たちである。しかし、この考えは間違っている。
 日本で生まれ育っただけでは、本当の日本人にはなれない。

■インド生まれのキップリングが残した言葉

 名作『ジャングルブック』を書いた作家ラドヤード・キップリングは、こう言っている
“What do they know of England, who only England know?”(イングランドのことしか知らない人間が、イングランドのなにを知っているというのだ)
 キップリングは、英国の植民地だったインド生まれの英国人である。しかも、世界中を旅して歩き、『ジャングルブック』はアメリカのバーモント州で暮らしていたときに書いた。
 つまり、自国以外の歴史、文化、伝統、社会を知らないで、英国がなにかなどと語ることはできない、英国人が誰であるかなどと語ることはできないと、彼は言ったのである。
 たしかに、英国から一歩も出なければ、英国の良さも欠点もわからない。

■日本は中国とは一線を画した1つの独立した文明

 すべての物事は、ほかと比較して初めてなんだかわかる。つまり、国内だけで育った人間には、本当の意味での愛国心は育たない、人間は生まれ育った環境と社会に強い愛着を持つ。しかし、その愛着は外の世界を知って初めて強く意識され、その結果、健全な愛国心が育まれる。
 健全な保守とは、そういうものだ。
 しかし、いまの日本に蔓延しているのは、不健全な保守、不健全な右傾化である。これに立脚した高市政権が、この国を立て直すことは、本当に難しい。
 日本はガラパゴスであってはいけない。世界中に窓を開いたオープンな国でなければいけない。こんなユニークな文化が、移民や外圧、間違った経済政策などで失われることなどけっしてない。
 サミエル・ハンチントンは、日本をわざわざ中国文明と一線を画して「日本文明」として1つの独立した文明に分類した。日本とは、そういう国である。(了)

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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