2024年、日本経済と円はさらに衰退
なぜもう2度と好景気と円高はありえないのか? (中2)
(この記事の初出は2024年1月2日)
日米の経済力の差がドル円相場を動かす
ただし、2022年から金利差が3〜4ポイントに拡大すると、一気に円安が進み、年末には150円台を記録した。
となれば、今年は、単純に考えれば、金利差が縮まって2ポイント台になれば、ドル円は以前と同じ100〜110円台に戻るということになる。しかし、そうなるわけがないというのが、私の見立てだ。
なぜなら、日米の金利差が4ポイントを超えたのは、アメリカのインフレ、コロナ禍後の景気の加熱があったからである。ところが、日本経済は沈んだまま。これでは、金利差がなくても円安は進むだろう。
ここ数年で日米の経済力の差は開く一方になっている。物価も給料も、開く一方である。しかも、貿易収支は赤字続きであり、こちらのほうが金利差などよりはるかに重要だ。
為替レートは、経済の実力差を反映する。そう見るのが自然であり、肌感覚に合致する。日本とアメリカを行き来して、そこでの生活をナマで体験すれば、円が安くなるのは自然の流れと実感するはずだ。
被害妄想に過ぎないアメリカ陰謀論
現在のアメリカは、日本に対する関心をすっかり失っている。かつてライバル視した日本経済は、いまや取るに足らない存在になった。それなのに、陰謀論は盛んである。
日本の量的緩和とマイナス金利はアメリカの命令。日本の経済政策はアメリカの言いなりで、いくら稼いでもアメリカに貢ぐだけ。米国債を無理やり買わされ、売りを禁止されているなど——。一部の人間はこれを信じているのである。
しかし、それは被害妄想というものだ。実際のところ、アメリカは同盟国の日本経済がこれ以上貧しくなっては困るし、円も弱くなるのは困る。そうなれば、中ロに対する抑止力は弱まってしまう。
アメリカにとって最善なのは、日本とドイツ(EU)が双発エンジンとなって、アメリカを支えることである。しかし、日本は勝手にこけ続け、ドイツはEUの盟主となってユーロによるドルへの挑戦を続けている。
アメリカは中国経済を救うのかもしれない
アメリカにとって、いまもっとも関心があるのは、ほかでもない中国である。習近平時代になる前までの中国は、いずれアメリカを追い抜いて経済覇権を奪うのではないかという勢いがあった。
ところが、コロナ禍を経たいま、GDP成長率は5%を下回り、地方につぎ込んだ公的資金は不動産バブル崩壊で不良債権となり、経済を牽引する輸出も減退している。
習近平政権はこの危機に、財政出動を拡大して乗り切ろうとしているが、失敗すれば中国経済はハードランディングする可能性がある。
こんな情勢で注目しなければいけないのは、ドル円より、ドル人民元である。というのは、不思議なことにイェレン財務長官が、昨年7月と11月と、2度にわたって訪中したことだ。これは、経済危機から中国が米国債を投げ売りして、ドル暴落が起こるのを防ぐためではなかったと考えられる。
また、FRBがもうこれ以上利上げしないとしたことは、大統領選を控えて景気が崩れるのを懸念したためだが、それが、じつは人民元を救っている。ドルの利上げ停止は、ドル・レートの下落と人民元レートの上昇を意味するからだ。これにより、中国は輸入インフレを抑制できる。
図らずもアメリカは、中国経済を救おうとしているのかもしれない。
(つづく)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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