米同時多発テロ「911」の跡地で11日、追悼セレモニーが行われた。2001年のテロ直後には前日から延べ1万人ほどの市民が集っていたが、23年後の今、セレモニーに参加する遺族の数さえ激減した。そんな中、最寄りにあるアイリッシュバー「オハラズ・パブ(O’Hara’s Pub)」は、当時救出活動にあたった消防士などファーストリスポンダーらが家族や友人らと集い、「ネバーフォゲット」の思いを新たにする場として大混雑だ。

建築エンジニア、ポール・フィッシャーJr さん(49)は、親子3代と親戚が毎年欠かさずオハラズに集まる。当日はツインタワーが見える1.5キロ南で働いていた。タワーから煙が上がり、リンカーントンネルから消防車や米連邦捜査局(FBI)の車両が突進してくる。熱波も押し寄せた。
「あの時、燃えるタワーから飛び降りる決断をした人たちのことが頭から離れない。タワーにとどまるよりは、何かを残したかったのかもしれない。人間の尊厳とはと考えさせられる」と目を潤ませる。何かしたいと、直後から瓦礫を取り除くボランティアに父親と参加した。
「毎年バーに来るのは、親戚、友人と会い、お互いに健康か幸せか確認し、生きていることをありがたいと思い起こすためだ」息子のクリス・フィッシャー・コフリンさん(21)も毎年バーに来る。911当時を知らない世代だが「ここに来て忘れないことが大切」と話す。
元消防士ロバート・アシュウェルさん(63)は、ペンシルベニア州から毎年訪れる。当時はペンシルベニア州で、オハラズの隣にある「エンジン・ラダー10」消防署と同じナンバーの分署に勤務しており、テロ直後、いたたまれず応援に駆けつけた。
「煙と熱が強烈で、しばらく近づけなかった。年に一度の今日、あの時の連帯感、友情、情熱を忘れないために毎年来ている」
テロでは日本人24人を含む2977人が死亡し、そのうち343人が消防士だった。
オハラズには当時従業員数人がいたが、タワーの倒壊で窓ガラスが炸裂するなど被害を被った。直後はグラウンド・ゼロで働く人々の憩いの場にはなったものの、テロで命を落とした常連客も少なくなかった。
取材が終わると「来年もここで会おう」と声を掛けられた。(津山恵子)
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