津山恵子のニューヨーク・リポートVol.46
NY市、移民に優しくなくなる?
サンクチュアリー・シティって何?

アパートの家賃は高い、物価も高止まりで、大都市ニューヨークで生き延びるのは簡単ではない。それでも過去に約20万人もの難民認定希望者が流入した。800万人都市に20万人は、かなり負担だが、ニューヨーク市は彼らを受け入れた。なぜなら、同市は「サンクチュアリー・シティ(聖域都市)」だからだ。
2023年夏、グランド・セントラル駅近くの老舗ホテル、ルーズベルト・ホテル前の歩道に難民認定希望者が寝泊まりしていた。市は、新型コロナ禍の影響で廃業した同ホテルに家族連れの難民を収容していた。しかし、単独で国境を越えてきた男性も多く、収容しきれなくなったため、一時的に歩道に集めていた。場所柄、比較的身なりの良いニューヨーカーが行き来する街角。そこで警察官と鉄柵に囲まれて、バッグ一つ抱えて黙々と暑さに耐える姿は異様な光景だった。
異常事態は、それだけではなかった。テキサス州のアボット州知事(共和党)などが、バスをチャーターし、国境を越えて不法入国した人々をニューヨーク市などサンクチュアリー・シティに送りつけてきたからだ。教会などの前に、数十人の不法移民を置き去りにして去るバス。その度に、ボランティアなど一般市民が彼らを助けようと寝る場所や食事を用意するのに奔走した。
サンクチュアリー・シティは国内に約300あるとされ、ロサンゼルス、サンフランシスコ、サンディエゴなど大都市が多い。警察は、外国人を逮捕した場合でも在留資格の有無を聞いたりしない。不法移民の母国への強制送還など取り締まりをする中央政府に対して、調査協力を拒否する-など不法移民を守る政策をとっている。
ニューヨーク市のエリック・アダムズ市長は、サンクチュアリー・シティとしてできるだけのことはした。ルーズベルト・ホテルをはじめ、市内の多くのホテルを避難所として開放させた。不法移民の滞在費は市の予算を大幅に圧迫した。このため、子どもたちの好物であるメニューを学校給食から削ったり、図書館を週末に閉館したりした。こうした大胆な財政措置も、日本にいたら驚くようなことばかりだ。
しかし、それも限界に来たようである。アダムズ市長は、不法移民叩きで気炎を上げるトランプ氏が大統領に再選されてから、方向転換を打ち出した。犯罪に関わった不法移民を厳しく取り締まり、強制送還させると表明。「トランプに日和った」と批判を浴びている。
真意は定かではない。犯罪に関わった不法移民はごくわずかだ。それ以外の移民はこれまで通り市内で保護を受けていく。アダムズ氏は、不法移民叩きで人気をとるトランプ新政権とのあつれきを避けるために、罪を犯した不法移民をスケープゴートにした可能性もある。 (写真と文 津山恵子)

津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。専修大文学部「ウェブジャーナリズム論」講師。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。
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