FRBを解体すれば金融資本は黙ってはいない
トランプが、現在の世界経済の現状をどう認識しているかはわからない。しかし、FRBに関しては、快く思っていないことは確かだ。大統領就任以前から、パウエル議長を激しく批判してきた。そして、「パウエルを解任する」とまで息巻いた。
これに対してパウエルは、大統領にはFRB議長を解任する法的権限がないとし、任期が切れる2026年5月までに退任するよう求める大統領の要請には応じないと主張した。
パウエル解任ばかりではない。トランプは「FRBは解体すべきだ」と言ったと伝えられている。
トランプがここまでFRBを敵視する理由は、たった一つ。金融経済の主導権を握りたいからである。ドルを“オレ様”の思うままに自由に発行したい。そうすれば貿易赤字など、簡単になくなる。
さらに、イーロン・マスクが「DOGE」でやっているように、政府をスリムにできる。
しかし、FRB解体は、CIAを解体したり、国防省の半分以上を廃止したりすることよりも、はるかに困難なことだ。そんなことをすれば、国際金融資本は黙ってはいない。
それでもドル基軸通貨体制は揺らがない
第2次世界大戦後、ドルが世界の基軸通貨となり、ブレトン・ウッズ体制ができたとき、アメリカ経済は世界のGDPのほぼ半分を占めていた。現在、アメリカのGDPが世界のGDPの占める割合は約25%、中国は約18% 日本はドイツ、インドとほぼ並んで約5%である。
このような世界の経済の構造変化から見れば、ドルの力は衰えていると言える。
そのため、コロナ禍を経て経済が低迷する前まで、中国を中心とする新興市場は、ドルに代わる共通決済通貨を模索した。BRICSで議論・提案されてきたのが通称「R5」と呼ばれるデジタル共通通貨だ。
しかし、このようなドル秩序、ドル支配に対する挑戦を、トランプは拒否し、「そんなものをつくったら100%の関税を課す」と牽制した。
しかし、そんなことをしたら、逆にドル離れが進んでしまう。また、トランプがFRBに求める金利引き下げは、ドル安を誘導し、ドルの力を弱める。現在、アメリカ国債(財務省証券)の残高は35兆ドルに達し、アメリカは常に財政の瀬戸際に立たされている。
しかし、それでも、ドル支配体制が揺らがないのは、中国経済の失速に加え、EUがユーロの流動性を高める措置を講じようとしないからだ。
そしてもう一つの大きな理由は、これまで何十年にもわたって、資産の蓄積がドルで行われたため、資産家がドル離れを嫌うからである。
ソロスの申し子ベッセント財務長官がドルを守る
トランプは、財務長官にヘッジファンド、キー・スクエア・グループ(Key Square Group)の創立者、スコット・ベッセントを指名し、上院で承認された。
ベッセントはジム・ロジャーズのインターンを経て、1991年にジョージ・ソロスが経営するソロス・ファンド・マネジメント((SFM)に入社し、ロンドンオフィスのトップとして、有名なポンド暴落を仕掛けた1人である。
長年にわたって、ソロスの薫陶を受け、ソロスから学んできた金融マネージメントのプロである。したがって、トランプより、はるかに世界金融とドルについて知っている。
ベッセントは、財務長官就任のため、1月16日に上院の指名承認公聴会に出席して、トランプの政策を支持する姿勢を打ち出した。
しかし、そうしながらも彼は、ドル高とFRBのシステムの堅持を主張した。それは、トランプの主張とは大きく異なるものだ。
この矛盾が、この先どうなるかはわからない。トランプがこのまま関税と金利引き下げで突っ走れば、ベッセントがブレーキをかけるかもしれない。
上院公聴会で、ベッセントはドルについて、「重要なのはドルが世界の基軸通貨であり続けることだ」と述べている。
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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