歴代大統領に「人格障害者」はいなかった
それにしても、自由と人権と民主主義の国であるはずのアメリカで、なんでこんなトンデモ大統領が誕生してしまったのか? その力の源泉となっている「大統領令」は、なぜここまで権限が強いのだろうか?
歴史を振り返ってみると、「大統領令」は様々な経緯により権限が強化されてきたことがわかる。それは、大統領にはいつも的確な指導者が選ばれ、議会も大統領を信頼してきたからである。
歴代大統領に、トランプのような「自己愛性人格障害者」(NPD:narcissistic personality disorder)など1人もいなかった。替え玉受験で名門大学を卒業し、口先だけの不動産転がしで財を築き、セクハラ・パワハラを繰り返し、平気で嘘をつき、絶対に自分の過ちを認めない。こんな人物が大統領になるなど、誰も思ってもいなかったからだ。
ちなみに、トランプがNPDだと、すでに2016年の第1期政権発足前に、アメリカ精神医学会(APA)が警告している。
20世紀にいたるまで、歴代アメリカ大統領は、国が本当の危機のときにしか、非常事態宣言下での「大統領令」を使わなかった。たとえば、リンカーン大統領は南北戦争に際して、軍の召集、南部港湾の封鎖などといったことを、議会が休会中だったことを理由に実施し、その後、議会の追認を得ている。
これまで大統領権限はずっと強化されてきた
「大統領令」の法的整備は20世紀になってから進んだ。戦時という非常事態は議会決議が必要だったが、それ以外でも非常事態を大統領の判断で宣言し、「大統領令」を出すことが可能になった。
例えば、大恐慌後、フランクリン・ルーズベルト大統領は、銀行業務の一時停止、金輸出と外国為替取引の停止を命じた。ルーズベルトは大恐慌を戦時に匹敵する非常事態としたのだ。ただし、これは明らかな権限濫用である。しかし、議会は追認した。こうして大統領権限は拡大した。
第2次大戦後も、事情事態宣言をすれば、ほぼなんでもでもできてしまう大統領権限は続いた。しかし、1976年になって、これを制限する法律が議会で成立した。
それまでは、非常事態宣言は大統領が終了させない限り継続するものとされていた。これを、議会決議により、いったんすべて終結することにしたのだ。また、非常事態は1年で終了するものと決められた。ただし、大統領は 1 年の延長を宣言でき、それを繰り返すことは可能とした。
このように、議会が大統領令を覆せる規定、「議会拒否権」というものができたにもかかわらず、1983年に、最高裁は議会決議を違憲としてしまった。その結果、大統領が議会決議に拒否権を行使できることになり、議会が大統領令を覆すには議会の3分2の投票が必要になってしまった。
トランプは、第1次政権の時も大統領令を連発し、議会の承認を得られないと、拒否権を使って政策を押し通した。
いくらなんでも「なにかおかしい」と気づく
ここで、現在のアメリカ連邦議会の議員配分数を改めて確認しておきたい。それは、次のようになっている。
上院(定数100)=共和党53、民主党45、無所属2=民主党系、
下院(定数435)=共和党218、民主214、空席3となっている。
上院下院とも共和党がマジョリティだが、僅差である。トランプは選挙で大勝したと言っているが、それは強弁。このままトンデモ政治、強権政治を続ければ、2年後の中間選挙でひっくり返るのは確実だろう。民主党が共和党を逆転してマジョリティとなり、それも大差をつければ、トランプはレイムダック化する。「大統領令」が覆される事態が起こる。
現在、民主党は政権を非難する声をほとんど上げていない。声を上げているのは、分断された国民のほうで、各地で反トランプデモが起こり出した。デモの参加者は、「Not My President」(あなたは私の大統領ではない)を掲げ、トランプを非難している。
インフレは前大統領バイデンのせいだったのに、いっこうに収まる気配がない。堅調だったNY株価も崩れ出した。
この先、トランプ関税の影響で、生活用品やクルマの価格が上がるのは確実。そうなれば、トランプの岩盤支持層のプアホワイトも、「なにかがおかしい」「話が違う」と気がつくだろう。その日は、案外早くやって来るのではなかろうか。
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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