自律型AIとはなにか? AI進化の5段階
AIは進化して「AGI」(Artificial General Intelligence)になるとされている。特定のタスクをこなすのではなく、人間と同じように広範囲の知識・知能を持ち、学習や問題解決ができるという「汎用AI」だ。
自立型AIは、そのプロセスの第3段階だという。
OpenAIでは、AGIに至る5段階のロードマップを公表している。以下はその概要。
[レベル1:対話型AI(Chatbots)]
すでにChatGPTなどの生成AIで実現しているモデル。人間の言語のニュアンスや幅広いトピックを理解し、文法的に正確かつ文脈に適したテキストを生成する。適した画像も生成する。
[レベル2: 推論型AI(Reasoners)]
すでにOpenAIでは、このレベルを達成している。ひと言で言うと、人間レベルの問題解決能力を備えたAIで、対話型AIとは異なり、高度な論理的推論を用いて複雑な問題を独立して解決できる。医療、法律、工学、金融などの幅広い分野で導入されつつあり、問題解決および意思決定を行っている。
[レベル3: 自律型AI(Agents)]
このレベルになると、もはや人間による継続的な入力や監視は必要なく、AIが自らデータを分析し、事前定義されたルール、および経験からの学習によって意思決定を行う。自律的でありながらユーザと協働することもできる。
[レベル4: イノベーション型AI(Innovators)]
イノベーションを生み出すために設計されたAI。既存の問題を解決するのはもちろんのこと、新しいアイデアを生み出し、画期的なソリューションを作成する。イノベーション型AIでは、目標をより効率的に達成する方法を探ることができ、研究開発活動を人間以上に行える。
[レベル5: 組織型AI(Organizations)]
ここまできたAIは、組織全体の作業をすべて実行できるようになる。意思決定、管理、運用実行などのさまざまな機能を統合し、組織内の複数の分野、財務、人事、マーケティング、生産、物流、顧客サービスなどに自律的に機能する。さらに、内外のデータを継続的に学習し、変化する状況に適応し、プロセスを改善し、戦略を随時更新していく。
この進化過程を知ってみて、改めて思うのは、社会にしても、ビジネスや金融にしても、もはや人間が介入する余地がほとんどないということだ。
とくにレベル5の組織型AIまできてしまうと、企業の一部門を丸ごとディスラプト(破壊&創造)できてしまう。いや企業丸ごとも可能だ。
トランプとイーロン・マスクの決別に思う
ところで、先日来、トランプとイーロン・マスクの決別(というか子供の喧嘩のような状況)が、報道されている。そこで思うのが、トランプはこのようなAIの進化、それによる戦争やビジネス、社会の変化に、まったく無知で、関心がないということだ。
5月23日、石破首相は関税交渉をめぐってトランプと電話会談をした。その状況を伝えたテレ朝ニュースによると、トランプは石破首相に、次世代戦闘機をアピールしたという。以下、その報道の引用。
《政府関係者によりますと、5月23日に電話で行われた日米首脳会談でトランプ氏は、次世代戦闘機F47の開発に加えて、ステルス戦闘機F22の能力を向上させる方針を説明し、アピールしたということです。
石破総理もこうした戦闘機などの防衛装備品に詳しいことから、同席者は「トランプ氏との間でとても話が盛り上がった」と話しています。F47はアメリカ空軍がボーイング社と開発する次世代の戦闘機で、トランプ氏が第47代大統領であることにちなんで命名されました。》
はっきり言ってトランプの頭の中は、“石器時代”である。いまは戦闘機自慢などする時代ではない。以前から、イーロン・マスクは、戦闘機開発を「馬鹿げている」と批判している。その理由は、AI、ドローンの時代に有人戦闘機は不要で、無人機のほうが優れているからだという。
自律型AI導入が絶望的に遅れている日本
このようにAIがどんどん進化しているのに、日本はその導入に立ち遅れている、そのことを思うと、今後、本当にまずいと思う。
先進的な企業は積極的に導入しているが、トップが自民党幹部のような年寄りばかりの企業だと、もはや絶望的と言っていい状況だ。
アメリカ企業の例を調べて見ると、戦略部門を丸ごと自律型AIでディスラプトし、顧客管理、マーケティング、ファイナンスなどすべてのシステムを自動化し始めている。ビックテック企業群は自律型AIの導入で、ひるむことなく未来に進もうとしている。
日本の立ち遅れで絶望的なのは、自衛隊である。日本は平和国家という立場から、人間の判断を経ないで攻撃を行える自律型兵器システム(LAWS)の開発は行わないとし、LAWSを国際法違反としているからだ。このことは、ネットワーク構築によるサイバーディフェンスにも大きく影響し、現在のところ、日本は無防備と言っていい。
また、自衛隊にはつい最近までドローン部隊がなかった。今年になってやっと、陸自は北海道でドローン戦を想定した訓練を始めたばかりである。さらに、いまだに偵察にはヘリコプターを使っており、これを今後ドローンに切り替えるという。
投資はAIがやり、人間はAIのパートナーに!
自律型AIは、今後、あらゆる面で社会を変えていき、人間がするタスクは限定されるうえ、大きく減る。例えば、金融・投資の世界では、リサーチ、判断はすべてAIが行う。なぜなら、人間には感情があり、高揚感や恐怖によって冷静な判断ができないからだ。しかし、AIはイケイケになることもひるむこともない。
つまり、近い将来、金融・投資用のAIエージェントがより広く普及すると、人間の仕事は、ロボットのキュレーター、トレーナー、そしてAIの戦略的パートナーへと変化する。これは、金融・投資の世界だけではなく、ビジネスのあらゆる分野に及ぶ。
となると、このような社会に、どのように適応すればいいのかが問題になる。つまり、いまの教育を大きく変えないと、子供たちの将来はなくなってしまう。この点においても、日本はかなり絶望的だ。
国家と政治家に、AI社会に対する危機感、想像力がない。よって、どうすべきは個々人で考え、実践していくほかない。ただ、私はもう歳なので、このような文は書けても、具体的なアドバイスなどできるわけがない。
はたして、イーロン・マスクはどう考えているのか?聞いてみたいものだ。(了)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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