いまさらなにを言っても仕方がないが、それにしてもアメリカの変貌ぶりには驚くほかない。若い頃から何度もアメリカに足を運び、「自由の国」(land of freedom)の空気を味わってきたこと思うと、脱力感、喪失感ははかりしれない。
すべてとは言わないが、まったくもってトランプのせいである。トランプがこれまでのアメリカを破壊し、さらにもっと破壊しようとしている。
そんなわけで今回は、トランプがいかにペテン師か、そして私利私欲の塊かを2回にわたって述べていきたい。岩盤支持層というラストベルトの白人貧困層(poor white)を見捨て、富裕層を太らせ、それによってアメリカを自分の王国にしようとしている。
反対デモの最中、誕生日に派手な軍事パレード
自動車関税25%によって、いまや、多くのアメリカ人がクルマを買えなくなった。買えるのは中古車。新車はトランプがいなくなるまで買い控えることが主流となっている。
最近は、トランプを「TACO(タコ)」(Trump Always Chickens Out:トランプは常にビビって取りやめる、の意味の頭文字を取ったスラング)と呼ぶようになったが、自動車関税だけは取りやめる気配はない。
クルマばかりではない。テレビ、冷蔵庫、洗濯機といった家電製品から、衣類、雑貨、食料品に至るまで、ありとあらゆる生活用品が値上がりしている。すべて、トランプ関税の悪影響で、この関税政策を続けたら、いちばん困るのは、トランプの岩盤支持層とされる白人貧困層である。
すでに、反トランプデモは、全米に拡大している。当初は、ICE(移民・税関執行局)の不法移民狩りに対する抗議(Anti ICE Protests)だったが、いまや、「トランプ辞めろ!王はいらない!」(No Kings Protests)に変わった。
しかし、そんなことを意に介する大統領ではない。なんと、自分の誕生日6月14日(79歳)に、首都ワシントンで派手な軍事パレードをやる始末。挙句の果てに、カナダのG7では、他国の首脳を置き去りにして、勝手に帰国してしまった。
いったいいつまで、閣僚たちはこの人格障害ナルシストに従うのだろうか?
「大型減税法案」で富める者はさらに富む
トランプの「ペテン政治」の最大の政策は、もちろん関税である。これでアメリカは復活する(=MAGA)と国民を信じこませ、物価上昇による生活苦に追い込んでいる。
そして、さらに追い討ちをかけるのが、「1つの大きく美しい法案」(One big beautiful bill act)と豪語する、いわゆる「大型減税法案」だ。
この法案は、債務の上限の引き上げと所得税などの減税をパッケージにしたもので、すでに下院を通過したが、多くの問題点が指摘されたため、上院での可決のための修正をめぐってもめている。
最大の問題点は、米議会予算局(CBO)が指摘しているように、今後10年で連邦赤字を2.8兆ドル押し上げてしまうこと。そして、減税といっても、医療支援費の削減などにより低所得層の世帯年収が減ってしまうことだ。
下院通過案をCBOが試算した6月13日の発表によると、
所得下位10%の世帯では、2026~34年度に年収が約1600ドル(約23万円)減る。これは、低所得者向けの医療支援「メディケイド」や食料支援プログラム(フードスタンプなど)を削減するためだ、
一方、所得上位10%では、減税の恩恵により年収が約1万2000ドル(約170万円)増加。中間層では年間500~1000ドル(約7万~14万円)の増収となる。
なんとことはない、貧しい者をさらに貧しくし、富める者をさらに富ますのだ。
はじめから低所得者の味方ではなかった
トランプは、今回の大統領選中、メディケイドに関しては「削減しない」と繰り返し明言してきた。それを思えば、「大型減税法案」は最大のペテンと言っていいだろう。
しかし、低所得者層は、この法案がこのような側面を持っていることをほとんど知らない。
トランプは第1次政権でも、減税を行っている。しかし、これもまた富裕層向けのもので、アメリカの格差は拡大した。このときのトランプ減税により、アメリカのもっとも裕福な上位400世帯が支払った実効税率の平均は23%となり、下位世帯50%の平均税率の24.2%を下回った。アメリカ史上初めて、富裕層の納税額が下位所得層である労働者階級の納税額より低くなったのだ。
富裕層がさらに富み、格差が拡大したりすること自体を、私は悪いことだとは思わない。それが、社会を活性化、経済を発展させるからだ。しかし、一般労働者階級を生活苦に追い込むのは政治ではない。彼らの職をつくり、働けば豊かになれる環境をつくるのが政治だ。
トランプは、自身がミリオネアなのだから、貧乏な人々の味方などするはずがない。はじめから彼は富裕層の味方だったのだ。トランプの岩盤支持層は、ちょっと調べればわかることすら調べず、彼の甘言に騙され続けている。
【この続きは7月24日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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