法人税、所得税のない州もあるアメリカの税制
トランプは第1次政権のときに、連邦法人税を35%から21%へと大幅に引き下げた。アメリカではこれに州ごとに異なった州法人税が加わるが、ネバダ、テキサスなど6州はそれがない。
また、連邦個人所得税は最低税率が10%、最高税率が37%となっていて、これに州別の個人所得税が加わるが、こちらもフロリダ、テキサスなどの7州では所得税そのものがない。
つまり、アメリカの税制は企業と富裕層にとって優しく、これに今回の「大型減税法案」と「国際租税協力枠組条約」からの離脱が加われば、これはまさに「タックスヘイブン」と言うほかないのだ。
ちなみに、法人税は、英国は19% ドイツは15.83%、カナダは15%だから、アメリカがとりたてて低い和歌ではない。ただし、日本は23.2%と高い。
国際的な銀行口座情報の交換システムに不参加
アメリカが富裕層に優しい点がもう一つある
それは、日本を含む100以上の国と地域が参加している「CRS」(Common Reporting Standard:共通基準)に参加していないことだ。
「CRS」は、外国の金融機関に保有する口座を利用した国際的な租税回避を防止するために、OECDが策定した、金融口座情報を自動交換する制度。つまり、自国の富裕層が国外に資産を移転していた場合、それをその国の銀行口座情報を開示してもらうことで把握できるという仕組みである。
アメリカは当初から「CRS」に参加していない。そのため、自国内にある非居住者(多くは外国人富裕層)の口座情報を、加盟国の税務当局に提供しなくていい。これは、外国人富裕層にとっては、とんでもない僥倖である。
なぜ、アメリカだけにこんなことが許されるのか?その理由は世界覇権国だからという以外には見当たらない。なぜなら、スイスや香港をはじめ、シンガポール、ルクセンブルク、マン島などのタックスヘイブンも「CRS」に参加し、各国の税務当局との間で金融口座情報を自動的に交換しているからだ。
「CRS」の穴埋めの「FATCA」で富裕層囲い込み
アメリカが世界金融および税務の世界で例外なのは、「FATCA」(Foreign Account Tax Compliance Act:外国口座税務コンプライアンス法)という制度を持っていることもある。
これは、アメリカ国民(永住権保有者も含む)の海外を利用した脱税を調査できる法律だ。CRSに参加しない穴埋めのような措置で、「FATCA」によって、アメリカの税務当局は、外国にあるアメリカ国民の口座情報を強制的に提供させることができる。
要するに、アメリカ国民はアメリカで稼いだマネーを海外に持っていくなと言っているのだ。
トランプは、今回、「FATCA」の適用範囲を広げ、より厳格な運用を推進している。トランプは、アメリカに富裕層を集め、それを囲い込みたいのだろう。
500万ドルの「ゴールドカード」で永住権を販売
トランプは、ともかく金持ちが大好きである。そのため、世界中の金持ちを集めようと、「トランプ・ゴールドカード」なるものをつくって、販売を始めた。このカードを購入すると、自動的にアメリカの永住権(グリーンカード)を得られる。
しかし、アメリカにはすでに「E-5ビザ」(投資ビザ)があり、投資額は、地域や投資方法によって異なるが、最低で80万ドルを投資すればグリーンカードが取得できる。そのため、トランプの思惑ほど売れていないし、評判もよくない。
ただし、このほど(6月19日)、アップルが大量購入したとロイターが報道した。アップルとしては、Eビザ対象国ではないインドから、これによって優秀なエンジニアを集めようとしているのではと推測されている。
いずれにしても、トランプの発想は、カネさえ払えばなんでもできる。すべてはカネ次第ということだ。100万ドルで自分の夕食会を売り出し、出席した人間の身内に恩赦を与えたのと、同じ発想である。
この続きは8月1日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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