賄賂あり、買収ありの無法ビジネスを承認
では、スティグリッツが指摘した残る一つ「海外腐敗行為防止法」とはなんだろうか?
これは、「FCPA」(Foreign Corrupt Practices Act)と言って、1977年に制定された法律で、外国公務員に対する贈賄行為を禁止している。
「FCPA」は、アメリカの企業や個人が、ビジネス取引のために外国公務員に賄賂を支払うことを禁じ、違反者には罰金や懲役刑が科せられる。「FCPA」違反は、企業に対しては200万ドル以下の罰金、個人に対しては5年以下の禁固または25万ドル以下の罰金、またはその併科が科せられる。また、適用はアメリカ企業だけでなく、アメリカとわずかにでも関係を持つ企業にも及ぶ。
つまり、「FCPA」は、世界に公正な競争環境をもたらしてきたと言っていい。
ところが、トランプは、2月10日に、なんとこの法律の執行停止を命じる大統領令に署名したのである。停止期間は180日としたが、180日間延長可能となっている。
これにより、アメリカのビジネスは賄賂あり、買収ありのなんでもOKになってしまった、つまり、カネがある者が勝つという世界を、トランプはつくり出したのだ。
大学弾圧、教育省廃止の意味するところ
こうした、トランプの富裕層優遇、カネだけがすべてという姿勢は、ハーバード大学などに対する補助金打ち切り、留学生追放などによる「教育弾圧」にもつながっている。
一見するとこうした弾圧は、行きすぎたリベラル、ポリティカルコレクトネス、DEI(多様性、公平性、包摂性)に対する見せしめと思える。
しかし、トランプは、教育省の廃止まで掲げ、リンダ・マクマホンを教育長官に起用している。彼女は、トランプの盟友で、プロレス団体「WWE」の元CEO。教育とはなんの関係もない人物である。
トランプが言うには、教育省は莫大な予算を投入して、生徒のためにはなっていない、行きすぎたリベラル教育を行っている。だから、連邦政府の予算をさかないと言うのだ。しかし、そんなことをしたらどうなるか?
その行く先は、格差、階級の固定である。
「貧困層は貧困のままでいろ」というメッセージ
アメリカは」自由の国で、誰もが豊かになれるチャンスがある。そして、そのチャンスを提供するのが教育だ。貧しい家庭に育っても、成績が優秀なら、国が教育予算を使ってサポートしてくれる。
「アドバンス・プレイスメント」は、そうした制度で、優秀な生徒がレベルの高いクラスを受ける費用、進学のために必要な試験の費用などを援助してくれる。これにより、貧困層の生徒も富裕層の生徒と同じようなチャンスが得られる。
しかし、トランプは教育予算を大幅に削り、この道を閉ざそうとしている。つまり、貧困層は貧困のままでいろと言っている。
自身がバックドアからの入学(カネと替え玉受験)で、アイビーを卒業しただけに、カネがない人間は人間扱いしないのである。ラストベルトで製造業に従事して職を失い、貧困層に転落したプアホワイトのことなど、ただの票田と思っているにすぎない。
このまま、トランプの「ペテン政治」が続けば、アメリカは腐敗した富裕層天国になる。それは、史上もっともおぞましいアメリカである。(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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