2025年夏、ニューヨークで開催されたアジアの映画祭(NYAFF)に、日本から1本のアニメーション作品が招待された。タイトルは「無名の人生」。監督を務めたのは、これが長編デビューとなる鈴木竜也監督だ。キャリアわずか5年の若手監督が、なぜ海を越えて注目されたのか。「日本の観客を映画館に呼び戻せる作品が作りたい」、そう語る鈴木監督に話を聞いた。

(photo: Chris Kammerud @cuvols)
「無名の人生」は、いじめられっ子の孤独な少年が転校生との出会いをきっかけにアイドルを目指し、やがて100年にわたる波乱の人生を歩んでいく物語。「誰からも本当の名前で呼ばれることのなかった男」の生涯を、高齢ドライバー問題、芸能界の闇、若年層の不可解な死、戦争といった社会問題を背景に、それぞれ「他者からの呼称」を冠したエピソードで描き出す。
「“名前”って面白いな」
── まず、「無名の人生」という作品の制作きっかけやインスピレーションを教えてください。
「まず最初にパッと浮かんだのは『無名の人生』というタイトルでした。その前からも“名前”って面白いな、とずっと思っていて。昔、新宿のバーで働いていて、お客さんや自分にいろんなあだ名がつく場面を見てきたんです」

(photo: Melanie Hyde @melyde12)
── どんな名前が?
「お店では “マスター” と呼ばれたり、お客さんも飲み屋用の名前があったりして。酔っぱらっていても、実は大企業の役員だったりする人もいて。そういう話を聞いているうちに、『名前が人格だとしたら、みんな多重人格なのかもしれないな』と思ったんですよね」
── その発想が、作品の構成にも?
「はい。名前を章立てにして人生を描く作品を作りたいと思いました。昔から『市民ケーン』(1941)のような作品に憧れがあったので、自分なりにそういう作品を作ろうと決めました」

(photo: Melanie Hyde @melyde12)
「海外で上映することは全く想定外」
── そういえば、英語のタイトルは「Jinsei」で、この作品のキーとなる “無名” が含まれていませんね。
「『アンノウン・ライフ』など候補はあったんですが、いろんな意味を込めすぎると限定的になると思ったんです。逆に外して“人生”だけにしました。今思えば入れてもよかったかもしれないですね。海外で上映することは全く想定していなかったので、日本人が作ったということで『人生』でいいか、と思いました」
── 海外は意識されていなかったとはいえ、今回初の長編に挑む上では「必ずスクリーンで上映する」と強く決心されていたそうですね。
「そうですね。僕自身スクリーンで映画を見るのが好きなので、家で見るより効果的な演出ができればと、画面サイズなどを意識して作りました。それこそ昔は海外への憧れが強かったですが、今は日本の観客をどう映画館に呼び戻せるかが一番の課題だと思っています。今回もそれを目指して作りました。これからも、海外向けというより、日本の観客が楽しめる作品を作りたいとは思っていますね」

(photo: ©Naomi Bayas @naomi.fotos)
── フランスの映画祭でも上映されたそうですが、反応はどうでしたか?
「最後の15分で退出する人が続出して、逆に笑ってしまいました。ニューヨークでの上映は、そうならないことを願いつつ、どこで笑いが起きるのかワクワクしています」(※ インタビューは上映前に行った)
「無名の作家だからこそ自由に」
── 同作に含まれる社会、政治的テーマの濃さは、最近の日本の映像作品ではあまり見られない内容で、この数年間テレビや新聞で取り上げられていた話題が次々に繰り出されていきます。それこそ、一般的に外国人が抱く「日本のアニメ作品」とは格段に違った雰囲気ですよね。
「アメリカ映画などでは、企画から映画化までのスピードが早く、タブーに触れることも多いですが、日本ではあまりそういう傾向がない気がします。アニメなら少しマイルドになると思ったので、遠慮せずやってみました。無名の作家だからこそ自由にできる、という気持ちもありました。日本ではブラックユーモア的な作品は少ないので、その領域にも挑戦したかったんです」

── 次の作品の構想などは、すでにありますか?
「もし今回のようなアニメをまた見たいと言われれば作りますが、次は倍のクオリティで挑みたいですね。チームを組んで、短編でもいいので早く実写をやりたいです。今回の作品で、お客さんの反応を見ながら、自分の動き方を考えていきたいですね。日本での上映も落ち着いてきたので、ちょうど次のことを考え始める時期かなと」
── 最後に、「無名の人生」は “名前” が大きな意味を持つ作品ですが、鈴木監督はご自身の名前に対して、何か思いや執着などはありますか?
「『竜也』という字を『たつや』と間違えられることが多いので、見ただけで正しく読んでもらえるくらい名前を広めたいです。『宮崎駿』のように、難しいけれど誰もが読んでくれる。そこを目指していきたいですね」
取材・文/ナガタミユ
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