アメリカでは今、ロバート・ケネディ・ジュニア保健福祉長官が推進する「Make America Healthy Again(MAHA)」運動の広がりを背景に、大手食品会社や小売業が次々と健康志向の商品を打ち出している。14日付ニューヨークタイムズは、新しい“儲け話”とそれに伴うリスクについてレポートしている。

ウォルマートは今年6月から全米3000店舗に「Better for You Superfood」売り場を新設。チアシードやキノコ類などを並べ、消費者の需要を取り込んでいる。また、レストランチェーンのステーキンシェイクは、フライドポテトの揚げ油を種子油からケネディ氏が推奨する牛脂に変更(ケネディ氏はキャノーラ油や大豆油、サフラワー油など8種類の種子油は健康に有害だと主張している)。

オーガニック冷凍食品会社のデイリーハーベストは、MAHA運動の提唱者を兄にもち、トランプ大統領が保健福祉長官候補に挙げたケースイ・ミーンズ博士に「メタボリック(代謝)ヘルスコレクション」の監修を依頼した。
ペプシコもトランプ大統領が最近、コカ・コーラに対しコーンシロップの代替として使用を促したプロバイオティクス入りコーラを今秋、投入予定。レイズとトスティートスのチップスを人工着色料と人工香料不使用の製品にリブランディングする計画もある。
農産物業界もこのトレンドをチャンスと捉えている。生産者大手ドリスコールや大手バイヤーのスイートグリーンなどを代表する国際新鮮農産物協会(IFPA)は、ケネディ氏の主張を引用し「薬の前に農業を」と訴える広告を展開している。
アメリカ人の食品システムへの信頼低下が背景に
これらのマーケティングの転換は、アメリカ人の食品システムへの信頼低下が背景にある。消費者行動に関する8月の報告書によれば、食品会社を信頼しているのは半数にとどまり、人工着色料などの特定の成分を避けるため、食品ラベルを確認する人が増加。中でもジェネレーションXとミレニアル世代の消費者の過半数が食品に関するMAHA運動への信頼を示している。
「政治より世界に良い食を」
一方で健康食品分野の企業は、政治色の強いMAHA運動に距離を置く傾向も見られる。SNSのプラットフォームSprinklrを通じて世論を監視していたというある自然食品企業のトップ経営者は、50万件の「MAHA」に関する言及のうち、約60%が否定的な内容だったと指摘。2019年からウォルマートでモリンガ飲料を販売してきたクリクリフーズの創業者、リサ・カーティスさんもトランプ政権の多くの政策に同意せず、ホワイトハウスから予算削減以外の具体的な政策が見えないと指摘。「政治より世界に良い食を」と語り、慎重な姿勢を示す。
健康志向を前面に出す企業はSNSなどで成分への厳しい監視を受け、グリホサート残留や加工脂肪使用を指摘される事例もある。消費者の信頼を得るには透明性が不可欠だが、何が本当に「健康的」かについてはいまだに合意がなく、企業にとってはチャンスとリスクは表裏一体となっている。
最終的に業界は「昔ながらのシンプルな食材」への回帰を促しており、牛肉100%を訴えるオマハステーキのように「本物らしさ」を武器にする企業も登場。食品の健全さをめぐる市場競争は、今後さらに激化しそうだ。
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