2025年10月23日 COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

山田順の「週刊:未来地図」 トランプは本当に「TACO」だった!中国に融和しロシアに強硬という180度転換のなぜ?(下)

■半導体の対中輸出認可は安全保障よりカネ

 トランプは、「NVIDIA」(エヌビディア)のAI向け半導体は安全保障上のリスクがあるとして、4月に対中輸出を禁止した。しかし、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOが、輸出しなければファーウェイ(華為技術)などの中国企業に独自開発されると主張したため、7月に一転して輸出を認めることになった。
 中国のスタートアップが、世界があっと驚く廉価な生成AI「DeepSeek」(ディープシーク)を開発したことも大きかったが、エヌビディアが輸出認可の見返りとして、売り上げの15%を政府に収めるとしたことも大きい。
 これは、いわば暴力団など反社会的勢力顔負けの国家による“ピンハネ”“上納金”であり、トランプが安全保障よりもカネを重視していることがはっきりしたと言えるだろう。

■「覇権勝利」路線から現実主義「均衡路線」に

 このような対中政策の転換は、“化石アタマ”のトランプのTACOぶりもあるが、その背景には、アメリカの政治中枢、シンクタンクなどの中国認識が変化したことにあるとも言える。
 これまで、ワシントンの対中政策の本流は、中国はアメリカに覇権戦争を仕掛けてきている、アメリカにとって代わろうとしているという認識の下に、「それなら軍事的および経済的に全面的に競争し、最終的に徹底的な勝利を目指すべきだ」というものだった。
 トランプ政権において、こうした思想の中心人物は、6歳から13歳まで日本で過ごした極東情勢の専門家、国防省の政策担当次官エルブリッジ・コルビーやキューバ移民の子の国務長官マルコ・ルビオなどだった。
 しかし最近、彼らは、中国政策を現実主義路線に転換している。すなわち、「バランスを保つことを優先し、戦略的安定を目指す」というものである。
 はたして、トランプは対中政策を大きく転換するのか?
 それは、10月31日から、韓国の慶州で開催される「アジア太平洋経済協力会議」(APEC)首脳会議でわかるとされている。トランプはAPEC前に日本を訪問し、関税と5500億ドル(80兆円)の約束を強固にし、さらに軍事費の増額を迫るはずだ。そうして、APECで習近平との「米中首脳会談」を行う予定という。

■先端技術でアメリカを上回ってきた中国

 いまや中国は、経済力、技術力、軍事力でアメリカを凌駕しつつある。トランプは大統領になって、中国の真のデータが上がってくるにつけ、イエローとバカにしていた中国への認識を改めざるをえなくなったのだろう。 
 いくら「マグニフィセント・セブン」((Magnificent Seven:グーグル、アマゾン、メタ、アップル、マイクロソフト、エヌビディア、テスラ)の7社が強いとはいえ、ハイテク分野(AI、ロボットなど)の研究論文数はすでに中国がアメリカを上回り、トップ研究者の半数が中国出身者という状況になっている。
 軍事面における先端技術でも、中国はアメリカを上回っている。ウクライナ戦争でわかるように、近未来の戦争はAIが情報分析、司令塔となり、ドローンやヒューマノイド(人型ロボット)が行う。中国は、すでに大量のドローンとヒューマノイドによる大部隊をつくっている。

■クリーンテック分野で欧米はもうかなわない

 地球温暖化をフェイクと思い込んでいるトランプを尻目に、中国は「温暖化ビジネス」の面では、圧倒的に世界をリードしている。中国は、世界の太陽光パネルの約80%、風力タービンの約60%、EVの70%、蓄電池の75%を生産し、いずれも日米欧企業よりも低価格で供給している。
 クリーンエネルギー関連の特許数では、世界の約75%を占め、また、レアアース、レアメタルなどのサプライチェーンでも支配的地位を築いている。
 ブルームバーグの配信記事『クリーンテック、中国に軍配-現地視察で不都合な現実理解と欧米勢』(9月24日)によると、「クリーンテック」(clean technology:再生可能エネルギー、省エネルギーなど環境問題を解決するための技術)においては、中国企業は断然だという。
 この記事は、7月に中国のクリーンテック産業を視察した西側のベンチャーキャピタル(VC)8社の投資家にインタビューしたもので、誰もがその先行ぶりに驚いたという。
 たとえば、その1人コンパスVCのパートナーを務めるタリア・ラファエリ氏は、バッテリーをはじめエネルギー関連のあらゆる分野で中国が先行していると認識していたが、現地で格差の大きさを目の当たりにし、欧州や北米の競合が生き残れるのか疑問を抱いたという。
 なぜ、中国はここまで先行したのか?
 その理由を、スタンフォード大学フーバー歴史研究所のダン・ワン研究員は、「強大な国家権力と消費者の購買力」にあるとし、欧米のように投資家のリターンなどほとんど考慮されていないからだと分析している。

この続きは10月24日(金)に掲載します。 
本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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