2025年11月13日 COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

山田順の「週刊:未来地図」 円もドルも、貨幣を信用してはいけない!金(ゴールド)こそが本当の貨幣(下)

■金貨→水増し金貨→コイン→紙幣というプロセス

 まずは、それまで民間業者が鋳造していた金貨を国家の独占事業にして、金をコントロール下に置いたことで始まった。
 次は、金の水増しによる金貨の価値の引き下げだ。金貨にほかの金属を混ぜ、純粋な金貨をなくしてしまった。さらに、国家は、その水増しした金貨を金の分量には関係なく、額面によって流通・取引されるような法律を制定した。
 ここまでなら、まだ金が使われていたのでいいが、次に国家がやったのは、金ではない金属でコインをつくり、それを貨幣として流通・取引されるようにしたことだ。
 そして締めくくりと言えるのが、紙幣の印刷である。紙幣はコインよりも簡単に製造できるからだ。ただし、ただの紙切れだから、一定量の金と交換できるとした。いわゆる「兌換紙幣」である。

■「金本位制」の崩壊と国家による金融の独占

 しかし、紙幣を印刷しすぎると交換する金が足りなくなる。その結果、大恐慌のときは、各国が金との交換を停止した。いわゆる「金本位制」(ゴールド・スタンダード)の放棄である。
 金本位制は、第2次大戦後、アメリカのドルによって復活したが、最終的に金との交換は停止され、紙幣は「不換紙幣」となった。
 これが、1971年の「ニクソン・ショック」である。
 以後、ドルは際限なく増え続け、何度も金融バブルを起こし、マネー以外のモノの高騰を招いてきた。
 このようなプロセスのなか、国家は銀行預金を支配下におき、中央銀行を設立し、紙幣の独占発行権と、金融市場を操作するさまざまな手段を支配した。政策金利の決定、国債の売買、民間銀行への貸し付け、与銀行への貸し付けなど、ほぼなんでもできるようにした。
 しかし、市場は正直だから、しばしば国家に反乱する。
 いずれにしても、国家さえ介入しなければ、金はいまも市場で価値が決まる貨幣であり続けたのである。

■「金本位制」により「有事の金」が確立した

 金(ゴールド)が、いまも、ほぼ貨幣として扱われ、人々が積極的にマネーと金を交換するのは、このような歴史を見ればわかる。その意味で、「金本位制」(ゴールド・スタンダード)でなくなったことは、現在の金融・経済に大きな問題を残した。
 ただし、歴史的には銀も貨幣とされたことがあり、一時は「金銀複本位制」のほうが主流だった。
 近代における貨幣制度で「金本位制が法的に初めて実施されたのは、1816年のイギリスの貨幣法である。その後、1844年にイングランド銀行が金と交換可能なポンドを兌換紙幣として発行して、制度が確立した。世界覇権を持つイギリスの通貨ポンドは、金の価値に裏付けられていた。
 ポンドがそうなら、世界中の通貨も金本位制を採用しなければならなくなる。そうしなければ、ただの紙クズだからだ。アメリカは、19世紀のはじめは金銀複本位制だったが、19世紀半ばから金本位制となった。
 この制度の下では、金と通貨は公定レートで一定に維持されなければならない。よって、金は有事の際にはもっとも安全な資産、つまり「有事の金」ということになった。  
 ちなみに日本は、日清戦争の賠償金をもとに、1897年に金本位制を採用した。

■大恐慌が引き起こした金本位制の停止

 金本位制は、第1次世界大戦後に各国とも、戦後の混乱の鎮静と復興のために一時的に停止された。その後、アメリカ、イギリスが復帰したが、1929年に世界大恐慌が起こると、アメリカが真っ先に停止し、イギリスもこれに続いた。
 金本位制の下では、通貨の発行量が金の保有量によって制限され、これによって通貨の価値は保全される。しかし、大恐慌でともかくマネーが必要になった政府は、この制限を停止して通貨を大量に発行することを選んだ。
 ただ、フランス、オランダ、イタリアなどは、当初は米英に追随せず、1936年になってやっと停止した。こうして、全世界が金本位制を捨ててしまったことで、関税囲い込みによるブロック経済圏が形成されることになった。これが結果的に、第2次世界大戦の誘因となったのは言うまでもない。
 トランプの関税政策は、課税の応酬を招き、金本位制停止による大恐慌後のブロック経済圏の形成と同じ効果を世界に与える。すでに、中国はBRICSに働きかけ、ドル経済圏から離脱する方向に舵を切っている。

この続きは11月14日(金)に掲載します。 
本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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