2025年11月14日 COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

山田順の「週刊:未来地図」 円もドルも、貨幣を信用してはいけない!金(ゴールド)こそが本当の貨幣(完)

■ニクソン・ショックはアメリカによる踏み倒し

 第2次世界大戦の教訓から、各国は共通の通貨政策の重要性を認識し、アメリカのドルを基軸とする「ブレトンウッズ体制」をつくった。
 世界覇権を手にしたアメリカが世界の金の約7割を保有していたので、ドルはいつでも金と交換できる兌換紙幣とされ、1オンスは35ドルに固定された。金本位制は復活したのである。
 しかし、この金本位制は、前記したように1971年のニクソン・ショックであっけなく崩壊する。
 アメリカはベトナム戦争の戦費がかさんで、ドルを大量に発行したため、ドルをため込んだ各国の金交換に応じることができなくなったからだ。つまり、アメリカによる「踏み倒し」である。ただし、ドルと金の兌換が正式に停止されたのは1978年である。

■いまの貨幣の価値はなんで担保されるのか?

 以後、世界各国は自国の経済状況に見合った通貨量を発行する「管理通貨制度」を採用し、現在に至っている。
 管理通貨制度下では、各国によって為替政策は違い、「固定相場制」を採る国もあれば、市場取引に委ねる「変動相場制」を採る国もある。
 ただ、いずれにしても通貨は金と交換できない。
 つまり、いまの貨幣価値を担保しているのは、その国の経済力(技術力、生産力など)、資源力(主に石油)に過ぎない。それが失われれば、その国の貨幣の価値も失われる。
 いまの円安は、日米の金利差が主因ではない。日本の国力の衰退を現している。円安をそう捉えないで、日米の金利差が縮まれば円高になるなど言っているエコノミストは、木を見て森を見ずの典型だ。

■なぜドル基軸通貨体制は揺らがないのか?

 現在、アメリカのGDPが世界のGDPに占める割合は約25%、中国は約18% 日本はドイツ、インドとほぼ並んで約5%である。
 第2次大戦後、ドルが世界の基軸通貨となり、ブレトンウッズ体制ができたとき、アメリカのGDPは世界のGDPのほぼ半分を占めていた。
 したがって、ドルの価値は衰え、基軸通貨の地位を失ってもおかしくない。アメリカは、巨額の財政赤字を抱えているだけに、ドル離れが起きてもおかしくない。
 中国はそれを狙い、BRICSにおいてドルに代わる共通決済通貨を提案している。しかし、トランプは「そんなものをつくったら100%の関税を課す」と牽制している。しかし、得意の関税で牽制しなくとも、ドル支配体制は揺らぎそうもない。
 なぜ、そう言えるのか?
 中国経済の失速、EUがユーロの流動性を高めていること、また、これまで何十年にもわたって資産の蓄積がドルで行われたため、資産家がドル離れを嫌うからなどの理由があるが、最大の理由は、アメリカが世界一、金を保有しているからである。

■世界の金の金保有量はアメリカが断トツ1位

 現在、世界中の中央銀行が金を買い漁っている。これが、金価格高騰の一因でもある。
 世界の金保有量のランキングは、1位アメリカ(約8133トン)、2位ドイツ(約3350トン)、3位国際通貨基金(IMF)(約2814トン)、 4位イタリア (約2451トン)、5位フランス(約2436トン)、6位ロシア(約2332トン)、7位中国(約2165トン)、8位スイス(約1040トン)、9位日本(約845トン)、10位インド(約799トン)となっている。
 アメリカが断トツで多い。日本は、GDPでまだ上位にいるが、金保有量はロシア、中国より少ない。これでは、円は担保されない。
 各国の中央銀行が大量の金を保有するのは、金がいまもなお「貨幣の価値保存手段」と思われているからだ。金本位制の廃止によって金は貨幣ではなくなったはずだが、それは表面上のことで、金は事実上の貨幣であり、これに代わるものはない。
 前記したBRICSが追求するドルに代わる基軸通貨は、金で担保するという話がある。インドはすでに金グラム建ての政府証券「ソブリン・ゴールド・ボンド」(SGB)を発行している。

■トランプは金が大好き。大統領執務室まで金ピカに

 トランプは、金が大好きである。トランプタワーは、下品だとして評判が悪いが、金ピカタワーであるのは間違いない。トランプタワーが物語るにようにトランプの金好きは度を超えている。なんと、大統領になるや、オーバルオフィス(大統領執務室)を改装し、金ピカな部屋に改装してしまった。
 金箔をふんだんに使い、暖炉の上には歴史的な金製品を並べ、壁や暖炉に金のメダリオンを施し、金箔を施したロココ様式の鏡を壁にかけさせた。各国の首脳との会談写真を見れば、後方の暖炉の上に金製品が並んでいるのがわかる。
 そしてトランプは、アメリカの金保有量を精査するように命令した。そのことから、トランプが金を時価で再評価させ、金価格を釣り上げてドルを安定させるのではないかとの推測が出た。

■残された金の埋蔵量は50mプール1杯分

 世界中が金融緩和で、マネーをばら巻いたから、その反動で、金本位制が復権する可能性がある。これ以上、マネーを野放図に増やしたら、インフレは亢進し、金融資産を持たない一般人の生活は立ちいかなくなる。再び金が貨幣になることは、あながち夢物語ではないかもしれない。
 ケインズは金本位制を嫌い、「未開社会の遺物」と言ったが、なにか勘違いしていたのではなかろうか。
 いまも、南アフリカなどで金の採掘が行われている。南アフリカの金鉱山会社の株価は高騰している。ただし、金の埋蔵量は限られ、推定で5万トンしか残っていないという。
 有史以来、採掘された金は2024年末時点で21万トンと推定され、これはオリンピックで使用される50mプールだと約4杯分という。つまり、金はあとプール1杯分しか残されていない。これでは、希少価値から今後も上がり続けるのは間違いないだろう。(了)

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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