90 %シェアのレアアースは中国の最強のカード
中国は、アメリカの弱点を知り尽くしている。ただ、関税だけを振りかざすトランプを、中国指導部は“単純バカ”だと思っているに違いない。
中国は、アメリカとの貿易戦争が起こって以来、あらゆる機会をみて、新規貿易相手を開拓してきた。その結果、かつて20%近くを占めていた対米シェアは、今年は10%強まで落ちた。そして、レアアースの世界シェア90%というカードを使う戦略で、アメリカと対等に取り引きする道を選んだのである。
レアアースというカードは強力である。極端な話、中国はアメリカと取引しなくても経済が成り立つが、アメリカはそうはいかない。レアアースが手に入らなければ、アメリカが世界をリードする先端ハイテク産業は成り立たなくなり、最新鋭の兵器もつくれなくなる。
アメリカに代わって中国が自由貿易の盟主に
トランプが米中首脳会談後に即座に帰国したのに反して、習近平は慶州に行き、APECの首脳会議に臨んだ。ここには、もちろん、高市首相も出席していた。
トランプは、中国、北朝鮮という厄介な存在をのぞいては、アジアなどにはまったく興味ないのである。
習近平はAPECの首脳会議の冒頭で、「われわれは本当の多国間主義を実行し、WTOの核心部分となっている多国間貿易システムの権威と実効性を強化するべきだ」と訴えた。
これは、本来なら、自由貿易の盟主、アメリカが言うことだ。自由貿易こそ、世界経済を発展させる。
しかし、トランプは、WTOはアメリカの利益にならないと、繰り返し脱退を示唆してきた。まだ脱退はしていないものの、WTOへの拠出金を停止してしまった。
中国は“開かれた市場”だとアピール
APECが終わった後のアジアで、最大の経済・貿易イベントは、上海で11月5日から始まった「中国国際輸入博覧会」である。ここで、中国は、世界中からの投資を募り、これまで世界中の国や企業を招待してきた。
今年はとくにグローバルサウスとアフリカ諸国の参加に力を入れて、過去最大の規模となった。博覧開場は、大阪万博などはるかに超えるスケールで、アメリカのブースは会場の一等地にあり、テスラはそこに最新モデルを展示した。
開幕式で李強首相は、「一部の保護主義的な行動が国際的な経済秩序を乱している」と述べ、アメリカの姿勢を批判し、中国は“開かれた市場”だとアピールした。実際、グローバルサウス、アフリカ諸国は関税ゼロだ。中国は余裕なのである。
李強は、中国の経済規模が5年後に170兆元(約3660兆円)を超えるとの見通しを示した。そして、中国がグローバル企業にとっての成長市場になると強調した。中国のGDPは現在、年率5%を割り込んでいる。5%以下というは、中国では不況とされる。5年後に170兆元というのは、年率にすると3.6%。李強はかなり低く見積もったと言える。
“ド派手”なハロウイン・パーティに批判殺到
韓国をそそくさと後にしたトランプは、翌日、10月31日に、マール・ア・ラーゴに、支持者、取り巻きを集めて“ド派手”なハロウイン・パーティを開いた。このパーティがあるから、トランプはAPECの会議をスルーしたのである。
トランプ主催のハロウイン・パーティのテーマは、スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』の再現。1920年代の「金ピカ時代」 (Gilded Age)の衣装をまとったゲストたちは、外界とは隔絶した世界を楽しんだという。
もちろん、このことが報道されると批判が殺到した。10月1日から政府機関が閉鎖され、貧困層4200万人が支援を受けるフードスタンプの打ち切りが迫っている最中のことだったので、批判というより怒りの声である。
「これは喜劇か、それとも悲劇か。トランプは貧困層をないがしろにしている」「大統領は感覚が麻痺しているとしか思えない」 「トランプはこんなパーティがしたくてホワイトハウスに舞踏場を建設しているのか」「トランプは『グレート・ギャツビー』がなにを描いているのか知っているのか」
この続きは12月18日(木)に掲載します。
本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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