トランプ大統領の世界観がそのまま反映されたアメリカの「国家安全保障戦略」(NSS)が公表されて以来、世界中で不安が高まっている。とくに、中国と緊張状態に入った日本は、この戦略によって見捨てられる可能性が高まった。
懸念されるのは、中国の動向だ。中国は、明らかにアメリカに代わって世界覇権を握ろうとしているからだ。それを阻止せず、「G2」などと言い出したトランプは、本当に愚かだ。
トランプが去った後にアメリカが「自由、人権、民主主義」の国に戻らなかったら、どうなるか? 世界の混迷は深まり、日本は方向感を失って“漂流”を続けていくだろう。
「唯一の超大国」という看板を下ろす
11月5日、アメリカ政府は「国家安全保障戦略」(NSS:National Security Strategy)を公表した。NSSは、通常、アメリカ大統領が任期中に1度発表するもので、アメリカの世界に対するスタンス、優先事項を示す。よって、今回はトランプ大統領の考え方が全面的に押し出されているわけだが、これがまったくもって独りよがり、愚かとしか言いようがない。
トランプの言いなりにこの文書をまとめた官僚たちは、相当苦労しただろう。
すでに、多くの報道が指摘しているように、NSSは「アメリカ・ファースト」を全面的に打ち出して、世界覇権国家たる使命など、まったく省みていない。台湾問題はほぼ無視し、アジアには無関心。欧州は移民受け入れで「文明消滅」の危機にあるとし、中南米を重視するといった具合だ。
トランプはNSSの序文で、「われわれはあらゆる行動においてアメリカ・ファーストを掲げている」と述べ、それにより「唯一の超大国」(superpower)であろうとしてきた試みを断ち切り、「アメリカは自ら世界を支配するという破滅を招く概念を拒否する」と宣言している。
中国にないのは「最先端半導体」と「民主主義」
アメリカが世界覇権国でなくなったら、世界はどうなるのか? それは言うまでもない。多極化世界、混沌世界の到来である。そうでなければ、覇権に挑戦している中国が、次の世界覇権国になる世界がやってきてしまう。
こう述べると、「そんなバカな」という声が必ず聞かれるが、10年前ならそれは正しかったが、いまはそうとは言えない。なぜなら、中国の力は10年前とは比べものにならいほど強くなったからだ。
いまや中国はほぼすべてを持っている大国である。名目GDPで世界第2位 の約18.7兆ドル。日本の名目GDP約4.2兆ドルの3倍以上で、アメリカの約29兆ドルに次ぐ世界第2位。
中国にないのは、「最先端半導体」と「民主主義」(三権分立)ぐらいではないか。
文明の危機を招く欧州の指導者をバカ呼ばわり
では、トランプが鼻高々に公表したNSSを具体的に見ていこう。
まずは、私たちの運命を握る東アジアに関してだが、はっきり言ってトランプは関心が薄い。中国を「経済的競争相手」として、いちおう台湾防衛を記しているものの、「敵」としても「覇権挑戦国」としても捉えていない。
中国はとの関係はあくまで「相互有益な経済関係」であるとし、「潜在的パートナー」ともしているからだ。
続いては欧州だが、NSSは欧州が移民と主流指導者によって「文明的消滅」に直面していると指摘。「現在の傾向が続くならば、NATO加盟国は数十年内に大多数が非欧州人で構成される可能性が高い」とし、「彼らがはたしてアメリカのような価値を共有するのか疑問」だと批判した。しかも、現在の欧州のリベラルな指導者たちを「野党を弾圧している」と非難し、暗にバカ呼ばわりしている。
これでは、欧州はアメリカから必ず距離を置く。12月11日、デンマーク国防情報局(FE)は、年次脅威評価報告書で初めて、アメリカを「安全保障上の脅威」と明記したが、これは当然のことと言えるだろう。
この続きは1月22日(木)に掲載します。
本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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