「モンロードクトリン」を復活させ西半球に集中
アメリカはかつて「モンロードクトリン」(Monroe Doctrine)という独自の外交政策をとっていたことがある。1823年に当時の大統領ジェームス・モンローが提唱したもので、「アメリカ大陸への欧州諸国の干渉を拒否する」と同時に、「アメリカも欧州の内政に干渉しない」という「相互不干渉」主義である。
これにより、アメリカはアメリカ大陸をアメリカの勢力圏であると規定し、南北アメリカにおける覇権をアピールした。
トランプのNSSは、なんとこのモンロードクトリンを復活させ、「アメリカは西半球で米国の優位を回復し、本土を防御するため、モンロードクトリンを再確認して執行する」と明示している。つまり、アメリカは今後、アメリカのバックヤード(裏庭)である中南米に力を集中し、東半球は優先事項としないとしているのだ。
東半球にはユーラシア大陸全体、アフリカが含まれる。つまり、アメリカにとっては欧州もアジアも最優先事項でなくなり、中国抑止を続けるものの、それは韓国、日本などの同盟国の力を合わせて行うというのである。
大きな戦略転換に北京は歓声を上げるだろう
NSSに関して、「ウォール・ストリートジャーナル」(WSJ)は、「中国をアメリカの最大の挑戦者としてきたここ数年間の基調と決別した融和的なアプローチ」だと論評した。
WSJの記事中で、SAIS(ジョンズ・ホプキンス大学国際関係大学院)のジェシカ・チェン・ワイス教授は「北京の指導者たちは今回の文書をアメリカの戦略が自分たちに比較的有利な方向に転向したと判断する可能性が高い」と指摘した。
また、AEI(米国企業研究所)のライアン・ペダシウク研究員も「アメリカが台湾問題において『反対する』から『支持しない』に立場を緩和したことに対し、北京は歓声を上げるだろう」と述べている。
第一導列島線の防衛を韓国、日本などに要求
NSSは、対中戦略に関して、具体的に次のように述べている。
「第一導列島線内のどこでも侵略を拒否できる軍事力を構築する。しかし、アメリカ軍だけでこれを進めることはできないし、また、そうすべきでもない」
「同盟国は積極的費用を支出しなければならない。そしてさらに重要なのは、集団防衛のためにはるかに多くのことをすべきことだ」
「日本と韓国が敵を抑止、第一列島線を守るのに必要な能力にフォーカスして、国防費を増やすように促すべきだ」
第一導列島線というのは、日本の九州−沖縄−台湾−フィリピンを結ぶ仮想の線である。この線を突破しようと、中国海軍は戦力拡張を測ってきた。こレニ対して、アメリカはもう自分たちでは守りきれないと言っているのである。
日本を擁護せずに中国を重視するトランプ
このような文脈の中に、いまや大問題となった高市首相の台湾有事に際しての「存立危機事態」発言を置くとどうなるだろうか? 彼女が、世界情勢を読めず、ついうっかり思っていることを言ってしまったではすまないことがわかる。
その後、レーダー照射事件が起こり、高市応援団と右派言論は勢いづいているが、トランプにハシゴを外されていることを自覚しないと日本は大変なことになるだろう。日中の対立に、トランプは口を挟まず、まして日本を擁護する気などさらさらない。
11月11日、報道官のカロリン・レビットに、「アメリカは日本と非常に強固な同盟を維持しつつ、中国とも良好な協力関係を保つ立場にいるべきだと考えている」と言わせただけである。
それにしても、トランプは本当に愚かだ。
モンロードクトリンというのは、19世紀の話であり、当時のアメリカは、まだ地域覇権も持っていなかった。しかし、いまや世界覇権を持っている。それを、手放して、アメリカ大陸だけの地域覇権国になり、それが「Make America Great Again」というのである。
世界の首脳を招いた盛大な軍事パレード
中国がアメリカに代わって世界覇権国になろうとしていることは周知の事実である。かつてはそんなことはないと思えたが、習近平政権になってからは、このことは明白になった。それなのに、トランプは中国を甘く見ている。というか、そんなことより目先の利益が大事だから、簡単に妥協して手を結ぶ。
なによりも、トランプは歴史に無知であり、地政学をまったく知らない。
9月3日、中国は北京で中国人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80周年記念式典を盛大に行った。このときの軍事パレードは史上最大規模で、プーチン、金正恩はもとより、直前に行われた上海協力機構(SCO)首脳会議に参加したグローバルサウスなど26カ国の首脳たちも顔を揃えた。
同盟国まで関税で恫喝し、「みかじめ料」を巻き上げるトランプのアメリカと習近平の中国を比べると、はるかに中国のほうが同盟国を大事にし、友好国作りに戦略的だ。
そして、その戦略を明確にした政策を、記念式典の前、SCOプラスの会議で、習近平が提起した。
この続きは1月23日(金)に掲載します。
本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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