思い出されるロックフェラーセンターの買収
今回のウォルドルフ・アストリアの件で、思い出されるのが、日本の三菱地所によるロックフェラーセンターの買収だ。ロックフェラーセンターはマンハッタンのど真ん中にあり、ニューヨークのシンボルと言える複合施設で、ロックフェラープラザを中心に複数のビル群から成っている。1987年には、「ナショナル・ヒストリック・ランドマーク」に指定されている。
それを1989年、三菱地所が運営会社のロックフェラーグループ(RGI)から約2200億円で買収したので、全米で激烈な“ジャパンバッシング”が起こった。当時の日本はバブルのピークにあり、ジャパンマネーはアメリカの物件をものすごい勢いで買っていた。
しかし、誰もが知るように、この投資は失敗に終わり、RGIは1995年に「チャプターイレブン」(破産法)を申請して破綻。三菱地所は1996年3月期にRGIの株式評価損として1500億円強の特別損失を計上して、ロックフェラーセンターを手放すことになった(ただし、買収した14棟のうちの2棟、タイムライフ・ビルとマグロウヒル・ビルはいまも三菱地所が所有している)。
つまり、アメリカはまんまと日本からロックフェラーセンターを取り戻したわけだが、はたして同じようにウォルドルフ・アストリアを取り戻すことができるだろうか?
今度の相手は日本ではない。したたかな中国政府である。
ソロスもバフェットもいまや「反中国」
思えば、ゴールドマンサックスが「BRICs」(Brazil, Russia, India and China)レポートを発表し、中国を有望な投資先、世界の経済成長のターボエンジンとしたことで、欧米諸国はこの国を誤解してしまった。いまだに、ヨーロッパはそこから抜け切れていないところがある。欧米諸国も国際金融資本も、「中国はわれわれがつくった枠組み、ルールのなかでプレーし、それで成長していきたいだけで、それ以上の野望はない」と思い込んできた。
しかし、それはとんだ間違いだった。
大投資家のジョージ・ソロスもウォーレン・バフェットもかつては中国を賞賛していた。中国への投資を進めていた。しかし、ソロスはいまや反中国に転じ、2年前に復帰すると、しきりに「中国崩壊論」(中国のハードランディングは不可避)を唱えるようになった。バフェットも「中国市場はカジノのようだ」と言って、中国を見切っている。
ただし、ソロスが「トランプが大統領に当選すれば、NY株は暴落する」と、相場を外したことだけはいただけない。とはいえ、この2人が中国を評価しなくなったことはいいことである。
はたして、トランプの中国強硬路線はホンモノなのか? 状況はまさしく「米中対立時代」に入っているが、先のことはまだ不透明である。いま言えることは、トランプ政権は2020年に終わるかもしれないが、習近平政権はずっと続いていくということである。
(了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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