副業禁止、成果給なし、転職市場なし
このように見てくれば、「働き方改革」というのは、単に残業時間を減らせばいいという問題ではないことがわかるだろう。労働慣行そのもの、労働システムそのものを変え、日本人の給料を上げなければ解決しない。しかし、少子高齢化で経済発展が望めないいま、固定費の給料を上げる余力が企業にあるだろうか。
そこで、高度プロフェッショナル制度が悪用されるのではないかという懸念が出ている。この制度は年収1075万円以上の“高度なスキル”を持つ社員を対象にしている。したがって、金融ディーラー、コンサルタント、研究職などがこれに該当すると国は説明してきた。しかし、その定義はあいまいだから、トータルでの人件費を増やさないために、高給の一般社員をなし崩し的に高度プロフェッショナル社員に認定してしまう可能性があり得るのだ。
なぜ残業で生活費を稼がなければならいのかという問題を突き詰めると、ほかに方法がないということに突き当たる。普通に考えれば、もっと稼ぎたければ、ほかにも方法はある。たとえば、スキルアップを図って給料のいい会社に転職する。もう1つ別の職を見つけて兼業する。副業をするなどだ。しかし、日本のほとんどの会社は兼業も副業も禁止している。
とはいえ、近年は転職が盛んになっている。ヘッドハンティングも多くなった。しかし、日本の転職市場は規模が小さいうえ、転職組は「よそ者」として嫌われる傾向がある。さらに、転職すると給料が下がるケースのほうが多いのだ。そういうことなら、社内で精一杯頑張って給料を上げてもらうしかないとないとなるが、これができない。誰もが年齢で昇給していくという「年齢給」が基本で、成果によって給料が決まるシステムになっていないからだ。どんなに売り上げを伸ばしても、仕事の効率化を図って生産性を上げても、給料は上がらない。つまり、より多く稼ぐにためには、より長く残業するほかないのである。それでも、東京にある大企業の事務職なら、残業を加味しなくてもなんとかなるだろう。しかし、地方の中小企業の事務職となれば、基本給が15万円ほどだから、これに残業代を加えなければ生活できない。企業側も「基本給+残業代」で実質的な給料と考えているところが多い。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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