規模、所蔵品、来館者数。そのすべてで世界屈指のニューヨーク・メトロポリタン美術館(メット)。東京での展覧会開催に合わせ来日したトーマス・P・キャンベル館長に、そのダイナミズムの理由を聞いた。
「実物で見る百科事典」と称され、古代オリエントの遺物から現代アートまで約200万点もの所蔵品を誇る。「でも、1870年に創立された際は一つもなかったのですよ」とキャンベル館長。私立で、基盤となる王室や政府のコレクションはなかった。「今までの成長と成功は、寄付や寄贈など、何千人という個人の寛容な支援があったからこそ」
慈善活動が米国で根付いていることや、寄付が税額控除の対象となる背景もあるが「ニューヨーカーのメットに対する誇り」が大きな理由だ。
とはいえ、美術館運営は巨大なビジネス。「たとえば昨年度の運営予算は2億4500万ドル。アートの価格は昨今上昇していて、欲しいもののほんの一部しか購入できない」と話す。
資金集めのパーティーなど努力も怠らない。17部門、100人もの学芸員は、コレクターやパトロンとの密接な協力関係を築く。「古代から現代写真まで、各部門でサポーターと学芸員の両者の情熱が化学反応を生む」。資金やコレクションだけでなく、外部の熱意や知識、情報までも美術館に取り込むのだ。
昨年は約630万人という世界中からの来館者も、美術館を活気あふれるものにしている。
人を引きつけるのに奇をてらった策はない。「いつ来ても何か新しいものが見られる」特別展、来館者の立場に寄り添う8カ国語のガイドや館内地図、専門知識がない人も楽しめる親切な説明…。さらに、ウェブ上で全所蔵品が検索できる。国籍や年齢を問わず、すべての人に門戸を開いているのだ。「一流の学者を抱えているだけでなく、どんな人も来館して人生を変えられるということに誇りを持っています」
1歳6カ月の赤ちゃんのためのプログラムも。「小さい子を持つ両親に居心地の良さを感じてほしい。それに子どもが成長すれば、また来館してくれるでしょう?」
東京・上野の東京都美術館で開催中の「メトロポリタン美術館展」に展示されているのは約130点。古代メソポタミア文明の石彫から現代写真までの「4千年の美の歴史」の中で、自然をモチーフにした表現がどのように変遷したかを「動物」「大地」などテーマ別にたどる。「メットの長所の一つは、ゴッホの絵を見ようと来館した人が、ティファニーの作品に期せずして出合えること。興味とは別のものを発見できるのです」
膨大な情報に混乱しがちな今の時代だからこそ、世界を理解する上で美術館が重要になっていると感じる。「われわれがどこから来たのかを知らずして、どこへ向かって進めばいいのか決めることはできないからです」
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