18歳で出会い、今日まで共に走り続けてきた蔵元の同志。彼らは、日本全国で唯一「醸造学科」の名を持つ東京農業大学の同級生だった。
共に学び、分かち合い、支えあってきた彼らに、互いの思いと海外での活躍について話を伺った。
新藤 二人と出会ったのは大学の入学式。やっぱり酒屋の息子同士でグループみたいなものができたから、やつらとは本当によく遊んだな。もちろん、お酒もいろんなところに飲みに行って・・・。そのころちょうど地酒ブームのはしりのような感じで、香りの華やかなタイプの酒が市場に出回ってきた頃で。だから、地方の地酒を扱っているお店なんかに行って飲んでみると「これはすごい酒があるな」と肌で感じるところがあって・・・。それこそ、三人とも学生の頃からこれからの日本酒に対して思うことがあって、それがそれぞれの今の蔵の形になっているんじゃないかな?
-それぞれ個性のある酒を提供されてますよね。
新藤 日本国内で言えば、三社とも日本酒愛飲家のための地酒専門店をターゲットに、より一層、嗜好品として楽しんでもらえる商品の割合が多いから、個性が見えるもんで。でも、海外ではまだ日本のような酒市場が出来上がっていないし、それが目に付くから、「日本酒の市場を間違ったものにしたくない。正しいことを伝えていかなきゃいけない」と思って海外に出てきているというのが、蔵元の後継者の本音。それは三人とも考えは同じなんだと思う。
久慈 新藤らしいね、真面目なところというか・・・・。僕もぶつかった壁なんだけど、ニューヨークで日本酒って言うと、どうしても“Hot Sake”の市場がまだ大きい。それと、新潟の酒のように有名だからそれでいいという市場がまだまだある。僕らが目指す-飲んで旨い酒・料理と合わせて美味しい酒・造り手のプライドを感じさせる酒-そういう酒の評価へと導くことは日本ではある程度成功しているが、海外ではまだ出来ていない。言葉や距離の壁など様々なものが邪魔しているので、なかなか普及させていくことが出来ない。でも、一人では難しいけど、「東農大の同級生3人」とか新しい価値を分かり易く伝えていくことで、これまで一社では入り込めなかった市場に入り込んでいける可能性はある。
-三人寄れば文殊の知恵のような・・・?
久慈 僕たちは、僕たちの酒を飲んでもらえば日本酒の素晴らしさを分かってもらえる自信がある。なぜなら、機械や誰かに任せるのではなく、我々が信念を持って自分たち自身で造っているから。飲んでもらえば分かるんだけど、飲んでもらうまでが難しくて。でも三人で何かひとつのことをすることで、解決できる手段が見つかるんじゃないかなって思う。
-なるほど。それを実現していくのがニューヨークなのですか?
木下 ニューヨークだけは別格というか、ニューヨークが一番日本酒に対する認識が進んでいるので入っていけるように感じますね。それでも、「南部美人」が先行しているのは間違いないですが。
-仲は良いけれどライバル心も?
木下 それは大学生の頃からで・・・。「南部美人」はいろんなお店のメニューに入ってたし、久慈なんて学生なのに自分の名刺持ってたし。だから、「いつかは、きっと!」ってライバル心メラメラだったよね。それでも、まだ商売のことを考えなくていい大学生の時に出会ったから、いまも仕事が絡まず仲間としてそれぞれの夢、お互いのやりたいことを尊重して話せるし、「それは違うんじゃない?」という意見も言えるし・・・。
-お互いかけがいのない存在ですね。
木下 お互いの存在は、同志でありライバルであり、支えあっていると会うたびに思う。二人がいるから、毎年進化をしていけるし。それは、レストランで彼らの酒を飲んだとき、「がんばってるな」と感じる。目指すものが伝わるし、こういう同級生の存在がありがたいと酒を飲むことで再確認できる。
蔵元というところに生まれた三人だからこそ、最終的には三人で肩を並べてイベントができたらいいかな。出会った頃からのトークショー付きで(笑)。
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