最近は「VPN」も規制されるようになった
ネットの話に戻ると、いくらグレート・ファイアウォールがあろうと、これまでは抜け道はあった。それは、「VPN」(仮想プライベートネットワーク)を使ったサービスで、これを使うとGメールなどの遮断されたサイトにもアクセスできた。業者は中国企業だが、中国駐在員や日本企業は、このサービスを使っていた。VPNでは、中国国内からいったんアメリカや香港、日本などの海外のサーバーに接続することで、ブロックを回避できるようになっていた。
しかし、ここ1年で、当局はVPN対策を強化したようで、最近はうまくつながらなくなったという。
中国当局の規制がもっとも厳しいのが、SNSである。海外のSNSを排除して、中国IT大手のSNSだけにしぼり、そこに実名で登録させて、すべての情報を吸い上げている。実名登録はSNSに限らず、ほぼすべてのネットサービスで義務付けられ、ユーザー名とパスワードだけではサービスを利用できない。
電子決済「微信支付」(ウィーチャットペイ)も「支付宝」(アリペイ)も実名登録だし、オンライン書店やネット銀行などのECサイトも、また、シェアサイクルまでも実名登録だ。
外国人の場合は、パスポートや身分証はもちろん、携帯の電話番号、写真まで要求される。これは顔面認証に利用されている。
WiFiを利用するにも、いまや電話番号の登録が必要となった。つまり、SNSなどで反政府的な書き込みを行えば、即座に公安がやってくるという仕組みができ上がってしまった。
「インターネットの自由」で中国は最下位
国際人権組織「フリーダム・ハウス」は、昨年11月1日に「インターネットの自由度ランキング2018」(Freedom on the Net)を発表した。世界65カ国を対象にネット環境の自由度を調査したところ、中国共産党式の検閲と監視モデルが世界に広がり、「デジタル権威主義」が進んでいることを警告した。
この調査によると、日本の自由度は世界でトップ10に入る。次が、そのランキングだが、スコアが小さいほうが、より自由度が高い。スコアが大きいと、インターネット上の制約が大きく、人々は不自由さを覚えるとされる。
1位 エストニア(6)
2位 アイスランド(6)
3位 カナダ(15)
4位 ドイツ(19)
5位 オーストラリア(21)
6位 アメリカ(22)
7位 英国(23)
8位 日本(25)
8位 ジョージア(25)
8位 イタリア(25)
8位 南アフリカ(25)
8位 フランス(25)
以上が自由度が高い国だが、ではもっとも自由度が低い国はどこだろうか? もちろん、中国(88)が、65カ国中最下位である。そして、ワースト2がイラン(85)だ。
現在、人間活動の多くがインターネットを通して行われている。それだけに「インターネット・フリーダム」はますます重要になっている。「インターネット・フリーダム」は、人権に関する世界宣言でも明文化されている。そこには、「あらゆるメディアを通じ国境を問わず、妨げられることなく情報を受け取り分け与える権利は不可侵である」と述べられている。
中国のネットが今後ますます発展すれば、訪れるのは自由のない世界である。強権国家で、支配層だけがなにをしてもよく、それ以外のすべての国民は監視下に置かれて自由を奪われる。それが、ネットがもっとも進展した社会だとすれば、これは恐ろしいことだ。
ただ、中国人もかつてないほど世界に出ているし、人の交流によるグローバル化は世界中でどんどん進んでいる。よって、ネット規制をいくら強化しても、そこには限界があるだろう。はたして、2つのネットは交わることなく、このまま進展していくのだろうか?
(了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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