連載213 山田順の「週刊:未来地図」カネで学歴が買えるアメリカ (上) "裏口入学"はそれほど悪いことなのか?

 「米史上最大の大学入学スキャンダル」発覚の余波が続いている。ハリウッド女優が登場したため、日本でも大きく報道された。
 しかし、今回の事件に対して、私は複雑な思いでいる。それは、このことの問題がどこにあるのか? 正直、よくわからないからだ。
 もちろん、金持ちの親たちがおカネで子供を名門大学に“裏口入学”させることは、道徳的に許されることではない。しかし、アメリカを見ていると、現実的にはそうとは言えないのだ。ただ、今回のケースはおカネが「賄賂」とされ、「詐欺行為」があったとされたので訴追された。しかし、そうではない場合、アメリカは日本で“裏口入学”とされることが、“裏口”にはならないのだ。

総額約28億円に上る「賄賂」で“裏口入学” 

 まず、「米史上最大の大学入学スキャンダル」と米司法省も認めた事件の内容だが、きわめてシンプルだ。3月12日、米連邦検察は、名門大学に“不正な手段”で子供を入学させていたとして、金持ち家庭の親や仲介者など50人を訴追した。訴追された親のなかに、人気テレビドラマ「フルハウス」に出演した女優ローリ・ローフリンや「デスパレートな妻たち」の主演女優の1人フェリシティー・ハフマンの名前があったので、メディアは大々的に報道した。日本でも、テレビのワイドショーなどが大きく取り上げた。
 “裏口入学”を斡旋していたのは、入試コンサルティング会社の設立者ウィリアム・シンガーという男。彼は33人の親から「キー・ワールドワイド財団」という偽の慈善団体に大金を寄付させていた。これは寄付者が課税されるのを免れるためで、これを資金として、子供の“裏口入学”の工作をしていた。シンガーは大学の試験監督やスカウト権限を持つスポーツチームのコーチなどを買収し、その総額は8年間で2500万ドル以上に達していたという。
 2500万ドルといえば、日本円にすると28億円ほど。その高額ぶりに日本のワイドショーの出演者たちはいちように驚いていた。また、そんな高額を払ってでも名門大学に行く価値があるのかということにも驚いていた。「アメリカは裏口入学といってもスケールが違いますね」と言った人間もいた。
 しかし、私はそれほど驚かなかった。そんなことより私が驚いたのは、親によって払った額が違うことであり、また、“裏口入学”の手口が、あまりにも古典的だったことだ。さらに、アメリカの名門私立大学には「レガシー・アドミッション」(Legacy Admission)という、卒業生の親族・子孫が優先的に入学できるシステムがあり、また、寄付金さえはずめば子供を入学させることも可能なのに、なぜ、わざわざ、ここまでやるのかということだ。

ボート競技未経験なのに特待生で入学

 たとえば、ローリ・ローフリンの場合、娘2人をUSC(南カリフォルニア大学)に入学させるため、50万ドルを支払っていたが、シンガーが用いた方法は、2人の娘をボート部の特待生で入学させるという方法だった。
 そのため、シンガーは、ボート競技などしたこともない2人の娘の顔写真を本物のスポーツ選手の体にフォトショップで合成して、大学側に提出していた。さらに、大学のスポーツチームのコーチを買収して、特待生扱いに仕立てあげたのである。
 完全な経歴偽造だが、それを合成写真で行ったのだから、この時代のやり方としては極めて幼稚としか言いようがない。買収が利いたと言えばそれまでだが、こんな手口に引っかかるのだから、大学側も間抜けすぎないだろうか。
 それにしても驚くのは、この娘2人がUSCにどうやっても入れないほど、できが悪かったということだろう。こんなことまでしなければならないほど、おバカだったと言うほかない。

買収すれば試験のスコアも偽装可能

 フェリシティー・ハフマンの娘のケースも、本当に驚く。こちらは、1万5000ドルを支払っていたが、それにより、娘のSAT(Scholastic Assessment Test)のスコアを試験官に書き換えさせていた。
 SATのスコアが簡単にいじくれることに、私はまさかと絶句した。というのは、私の娘は高校時代、SATのスコアを上げるため、必死に勉強して、何度もトライしていたからだ。
 アメリカの大学進学のためには、SATかACT(American College Test)を受けて、その大学が要求するレベルのスコアを取ることが必要だ。そのために、学生たちは必死で試験勉強をする。しかし、試験官にカネを渡せば、スコアは書き替えてくれることが、今回、初めてわかった。
 さらに驚くのは、ほかの金持ちの子供の場合だ。たとえば、試験官に試験中に解答を教えさせたり、子供に学習障害があると偽り、試験時間を延長させたり、また別室で受験させたりしていたという。
 このようなことは、かつて中国やインドなどで発覚し、大問題になったことがある。ただ、アメリカではありえないと思ってきたが、そうではなかったことが、これでわかった。
 ただし、なぜローフリンが50万ドルでハフマンが1万5000ドルと破格に高いのだろうか? 要するに、“裏口入学”には相場がないということなのか。

NYタイムズはどこが問題なのかと皮肉る

 話を戻して、前記したように、アメリカの名門私立大学では「レガシー」と「寄付金」が利く。「レガシー」というのは、日本流に言えば「コネ」であり、「寄付金」とうのはずばり「カネ」である。
 SATやACTのスコアがどうであろうと、親に「レガシー」か「カネ」があれば、子供は優先的に入学させてもらえるのだ。
 そのため、今回の事件は、メディアが大騒ぎしたものの、一般の反応は意外とそっけないものだった。これが日本なら大変な騒ぎになっていただろうが、そこまでにはいたらなかった。
 たとえば、ニューヨーク・タイムズでは、著名コラムニストのフランク・ブルーニが、「イエールやスタンフォードへの入学に賄賂? いったいなにが新しいんだ?」という記事を書いていた。つまり、「レガシー」や「カネ」がモノを言うのはみんな知っており、それは法に反していない。だから、今回のケースが賄賂だったとしても、それと変わらないではないかと言うのである。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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