連載455 山田順の「週刊:未来地図」人事から見たバイデンの対中政策は トランプの覇権戦争を継承 か?(下)

なぜ台湾系アメリカ人キャサリン・タイを指名?

 今回のバイデン人事で、画期的なのは、 USTR代表に台湾系アメリカ人のキャサリン・タイを指名したことだ。彼女もまたエリートで、ワシントンDC育ち。イエールからハーバードロースクールに進み、JDを習得している。バイデンの今回の人事は、かつて副ポストを務めた側近の閣僚起用が主流だ。しかし、彼女は、副ポストの経験がなく、いきなりの抜擢である。(ちなみに、抜擢といえば、運輸長官に指名された38歳の同性愛者ピート・ブティジェッジのほうが、まさに大抜擢である)

 キャサリン・タイの抜擢の目的は、NAFTAに代わる新協定「米国・メキシコ・カナダ協定」(UCMCA)の円滑な実施とされるが、対中政策を見越したものであることは間違いない。北京がもっとも嫌がる台湾系で、しかも、オバマ政権時代の2011年から14年までUSTRの中国部門の責任者を務めている。このとき、知財侵害、農産品や家電の輸出補助金、鉱物の輸出規制を巡り、世界貿易機関(WTO)に中国を提訴している。

 つまり、今回は、さらに強硬に、知的財産権侵害や補助金といった中国の国家資本主義の構造問題を改めさせるための圧力をかけるだろう。

 ちなみに、下院議長ナンシー・ペロシは大の中国嫌いで有名だが、キャサリン・タイはお気に入りだという。USTR代表の前任者は“ドラゴンスレイヤー”

(対中強硬派)のロバート・ライトハイザーだが、彼女はこれまで一度も彼を批判したことはない。

中国観不明のオースティン国防長官は適任か?

 アメリカの安全保障の要であり、アメリカ4軍(陸海空、海兵隊)の統括者が、国防長官である。今回、このポストに指名されたのが、黒人で元中央軍司令官のロイド・オースティンだ。アラバマ出身で、ジョージアのトーマスビル育ち。ウエストポイントを卒業した生粋の軍人で、ウエブスター大学でMBAを習得している。

 ただし、他の4人に比べると、対中観はまったく不明。中東専門だからだ。

バイデンは指名で、彼がイスラム国と戦った経験などを称賛し、「パンデミックから気候変動、核拡散、難民危機までグローバルな脅威に立ち向かうために世界を結集させる。彼はそのやり方を熟知している」と述べたが、もっと別の理由が言われている。それは、バイデンの長男で2015年に亡くなったボー・バイデンがイラク戦争に従軍していた際、オースティンを慕っていたことだ。

 共和党下院議員のマイク・ギャラガーは、中国による台湾侵攻を阻止する能力の維持を国防総省に求める「台湾防衛法案」の提出者だが、この人事を批判した。

「中国を差し迫った脅威と捉え、インド太平洋こそが最優先すべき地域と信じていれば、このような人選にはならない」

 もちろん、オースティンは反論し、「アジア太平洋の重要さは理解している」と述べた。

 アメリカにはシビルコントロールの見地から、軍人は退役後7年間は連邦法によって国防長官に就任できないことになっている。オースティンの退役は2016年なので、議会において規定除外の承認を受ける必要がある。

 いずれにせよ、長官人事は上院の承認が必要なので、オースティンにしても国務長官に指名されたブリンケンにしても、共和党に反対される可能性がある。ただし、補佐官は上院の承認は必要ない。

(現在、定員100の上院は共和党50vs.民主党48となっていて、ジョージア州2議席に関して1月5日決選投票が行われる。ここで民主党が2議席取れば、バイデン 副大統領が決定権を持つので、バイデン人事はすべて承認される)

(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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