連載544 山田順の「週刊:未来地図」「安価地獄」に陥った日本(2) デフレを放置したままだと先進国転落は確実(下)
なぜ給料は上がらず物価は安くなったのか?
物価安と給料安は、「卵が先か鶏が先か」と同じで、互いにリンクしている。物価が安いから給料も安いとも言えるし、給料が安いから物価も安いとも言える。
物価を決める要素は、大きく2つだ。1つは、経済の基本原則、需給関係である。日本では、「失われた30年」の間、ずっとデフレが続いてきた。いったんデフレに陥ると、企業は利益を確保するためにコストを削り、値下げ競争を繰り広げる。それが、日本の物価安の基本的な原因と言える。
もう1つ、物価はその製品をつくるコストの積み上げでも決まる。日本では、この「失われた30年」の間、最大のコストである賃金がまったく上がらなかった。そのために、物価は下がり、デフレが続いてきたのである。
では、こうしたデフレスパイラルを招いた根本原因はなんだろうか?
それは、日本のすぐ隣に、中国という安価で巨大な労働市場があったからだ。1990年代、日本企業は大挙して中国に進出し、安価な労働力を使ってモノづくりをして、なんとか利益を確保してきた。つまり、こうすれば、賃金を上げる必要はなく、製品も安くできたからである。
よく、日本の生産性の低さを問題にする向きがあるが、これは国内だけ見ても意味がない。日本は生産性を国内で高めることはせず、中国を使って高めたのである。
次世代産業を育てることに失敗した
ここで、同じように中国依存をしたのに、なぜ、日本はデフレになり、アメリカはならなかったのかという議論がある。アメリカも製造業はほぼ中国にアウトソースしたのに、日本と違って物価も上がったし、給料も上がった。なぜ、日本だけが、世界の先進国でただ一国デフレに沈んだのだろうか?
それは、ひと言で言えば、日本が次世代産業を育てられなかったからだ。いまアメリカで興隆を誇る「GAFA」のようなITハイテク産業を育てられなかったことが、日本の凋落を招いたのである。
アメリカでは、こうした新産業が「付加価値」を創造し、生産性を向上させた。
しかし、日本では製造業が1980年代の延長線上にモノづくりを続け、家電、半導体、液晶、パソコン、スマホなど、ほぼすべての分野で追い上げてきた新興国に敗けてしまった。
仮に中国が「開放改革政策」に転じなかったとしよう。そうすれば、日本のデフレは起こらなかったと言える。
中国という安価で巨大な労働力市場にアクセスできる以上、日本企業は賃金を上げず、安価な製品を大量に市場に投入できるようになった。しかし、これは「地獄への道」だった。アメリカは、製造業より生産性が高いハイテク産業、サービス業を育て、付加価値を常に創造し続けることで、成長を続けたのだ。
(つづく)
この続きは5月28日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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