連載570 山田順の「週刊:未来地図」バブル崩壊への「終わりの始まり」か? 株価大幅下落の先にあるもの(下)

連載570 山田順の「週刊:未来地図」バブル崩壊への「終わりの始まり」か?
株価大幅下落の先にあるもの(下)

 

静かに始まったインフレと金利上昇

 誰もがバブルだとわかっていながら、止められない株投資。いずれは弾けると思っても、それがいつになるかはわからない。  そのため、そのシグナルとして注視するようになったのが、インフレと金利である。この2つは、普通の経済状況であれば、景気がよくなると上昇する。

 物価が上がれば、金利も上がらざるをえない。そうなれば、金融緩和を続けてきた世界中の中央銀行は緩和の手仕舞いに入ることになる。そのときが来ればバブルは弾け、株価は下がる。じつに単純な理屈だ。

 実際のところ、金融緩和は永遠に続けられない。金融緩和というのは、国債を大量に発行しておカネを増やすことだから、必ずインフレを招く。FRBがテーパリングと利上げの前倒しを示唆するようになったのは、バイデン大統領がトランプ前大統領に続いて、給付金の追加バラまきを決め、さらに、6兆ドル超の歳出を盛り込んだ2022年度予算を議会に提出したからだ。

 これを見た元財務長官ローレンス・サマーズ(ハーバード大教授)は、「FRBが金融緩和を続けるなかでの財政拡張策は、われわれがこの30年間で目にしなかったインフレ圧力を形成しかねない」と警告した(「ワシントンポスト」紙への寄稿)。

 このサマーズ発言後、金価格や原油価格が上昇した。一部の投資家が、資金を株から実物資産に移す選択をしたと見られる。

富裕層も中間層もリスクオンからオフに

 株と債券とはリスクとリターンにより「トレードオフ」の関係にある。株はリスクが高いからリターンも高い。それに反して、債券はリスクが低いのでリターンも低い。

 つまり、株に対するリスク意識が高まると、リスクが低い債券に資金は移動する。

 アメリカの富裕層は、これまで、株式市場で驚異的な利益を上げてきた。ミリオネアたちはすでに十分な利益を得た。そのため、インフレや金利上昇の懸念があれば、株式市場から降りて国債購入に切り替える傾向が強い。

 先週のNY株価の続落は、こうした傾向の現れだと見る向きがある。実際、富裕層や投資家のセンチメントがリスクオンからオフに変化しつつあるようだ。

 富裕層や投資家ばかりではない。中間層も給付金などで可処分所得が増えたにもかかわらず、そのおカネを消費よりも貯蓄に回すようになってきた。実際、アメリカの貯蓄率は4月に27.6%まで上昇し、過去2番目の大幅増となった。また、家計が好む余裕資金の運用先のミューチュアルファンドの保有残高も前年比で48%も増加した。

いま私たちは一種の幸福感のなかにいる

 これまでのバブル崩壊を見てみると、崩壊は金利上昇とともに起こっている。中央銀行が利上げをしてからしばらくして、なにかのきっかけに株価は決定的な暴落を記録する。そして、そこに至るまでに、何度かの下落と反騰を繰り返す。 

 伝説の投資家ジョン・テンプルトンが残した有名な格言は、「強気相場は悲観のなかに生まれ、懐疑のなかに育ち、楽観のなかで成熟し、幸福感のなかで消えてゆく」である。

 これに照らすと、いまはどの時期だろうか?

 2020年3月のコロナショックの前、株式市場は十分に成熟していた。バブル崩壊目前だった。しかし、コロナ禍での大規模な金融緩和で先送りされ、以後、「懐疑のなかに育ち、楽観のなかで成熟し」続けてきた。そして、いま、ワクチンによってコロナが収束し景気が戻ってくるという一種の「幸福感のなか」で人々は生きているのではないだろうか?

 しかし、この幸福感は、コロナ収束後しばらくは続くが、インフレ、金利上昇で吹き飛ぶだろう。

(つづく)

 

この続きは7月13日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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