連載608 山田順の「週刊:未来地図」 「脱炭素」でトクをするのは誰か? なぜ欧米は自滅への道を突き進むのか?(中2)
(この記事の初出は7月6日)
コスト負担なしに脱炭素は達成できない
「SDGs」も「ESG」も、地球温暖化を考えたら、たしかに重要である。しかし、どんなことにも、それをやるにはおカネがかかる。コストを無視した投資は企業にはできない。
まして、エネルギーを化石燃料から水力、風力、太陽光などの再生可能エネルギーに変換するのには、莫大なコストがかかる。
日本を例に挙げれば、日本では東日本大震災以降、原発を実質的に再稼働できなくなったため、発電資源を石炭や石油、LNGなどにシフトし、同時に再生可能エネルギーの導入を進めてきた。
しかし、これには、国が企業・個人を問わず「再生可能エネルギー発電促進賦課金」というかたちの補助金を出す必要があった。こうしなければ、誰もエネルギー転換などしないからだ。
経済産業省の試算では、2021年度の補助金の総額は、約3兆円に上るという。これは消費税を1%引き上げるのと同じ金額である。
史上かってない莫大な税負担が必要
では、このような国の補助金の出元は、どこなのだろうか?
それは、もちろん税金である。CO2削減のためにつくられた「排出権取引」「炭素税」なども含めて、莫大な税金を注ぎ込まなければ、脱炭素社会は実現できない。
炭素税は、CO2を排出する個人や企業に対して、たとえばCO2排出量1トンあたり500円というように課税される。いまのところ目に見えないので批判は出ていないが、今後、こうした税負担が増えれば、確実に人々の暮らしは貧しくなる。はっきり言うと、地球温暖化対策は、社会を貧しくさせていく。
現在、各種研究機関や国によって、2050年カーボンゼロを実現させるために、どれくらいの負担が必要かが試算されている。その総額はまちまちだが、人類史上かってない莫大な投資になるのは間違いない。
脱炭素社会というのはじつは貧困社会
EUでは、電力単価によってコストを試算している。それによると、2015年比で、2030年には2割アップ、2050年には3~7割アップするとされている。 つきつめると、脱炭素促進では、税金による補助を受けた企業や個人は潤うが、社会全体ではいまより貧しくなる。儲かるのは、脱炭素にかかわる企業や関係者と、気象学者だけにすぎない。
このように、脱炭素社会というのはじつは貧困社会である。人類はこれまで貧困撲滅を目指して努力を重ねてきた。しかし、脱炭素社会の実現は、その流れに明らかに逆行している。
ここで大きな疑問にぶち当たる。
地球の温度を2度下げるためにだけ、なぜ、私たちはいまより貧しい生活を目指さなければならないのか。脱炭素社会を実現させても、新しい富は創造されない。エネルギー源がCO2出さない再生可能エネルギーに代わり、クルマがEVになるだけだ。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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