連載610 山田順の「週刊:未来地図」 「脱炭素」でトクをするのは誰か? なぜ欧米は自滅への道を突き進むのか?(完)

連載610 山田順の「週刊:未来地図」 「脱炭素」でトクをするのは誰か? なぜ欧米は自滅への道を突き進むのか?(完)

(この記事の初出は7月6日)

欧米がソンをして中国がトクをする未来図

 では、脱炭素に向けて突き進む世界の今後を考えてみよう。バイデンのパリ協定復帰、グリーンニューディールの促進で、欧米では急速に再生可能エネルギーへの転換が進むだろう。これまでのガソリン車も、どんどんEVに置き換えられていく。

 となると、欧米諸国の石油需要は減り、中東、南米などの産油国とロシアの石油の買い手は、ほぼ中国となっていく。

 石油メジャーも株主や環境アクティビストからの圧力で、石油から再生可能エネルギーへ軸足を移していく。となると、世界中にはりめぐらされた石油利権は、徐々に中国を筆頭とする新興国のものとなってしまうだろう。

 地政学的な見地から言えば、石油支配とドルによる金融支配で確立されてきたアメリカの「世界覇権」が弱まることになる。

 トランプはとんでもない大統領だったが、こと、地球温暖化に関しては、正しかったと思う。なぜ、アメリカが脱炭素に走り、自らの覇権を弱めようとするのか、私には理解できない。

 中国に世界覇権の一部でも渡すことは、世界に大きな災害をもたらす。人権や自由のほうが、気候変動よりはるかに重要ではないだろうか。

 脱炭素は、どう見ても欧米の「自滅政策」である。

馬鹿正直に目標に邁進していいのか?

 とはいえ、脱炭素社会への動きは、今後、グリーンバブルを産む。コロナバブルが弾けても、次にグリーンバブルが始まる。量的金融緩和は手仕舞いされていくが、それに代わって、グリーンエネルギーへの投資というかたちで、公的マネーが注ぎ込まれる。

 となれば、脱炭素社会実現のために必要な資源の価格は高騰していくだろう。例外は、化石燃料だが、この需要を中国が埋めれば、原油価格すらも上がる可能性もある。

 すでに脱炭素のトレンドが、鉱物資源への投資を促進させ、価格の上昇を招いている。銅やニッケル、アルミニウムなどは、グリーンバブルに踊ろうとする投機筋のターゲットになっている。

 日本は、これからバカ正直に脱炭素に邁進しようとしている。アメリカは、この先ふたたび共和党が政権を取れば、地球温暖化政策を転換させる可能性がある。しかし、日本は1度決めると後戻りができない。

 地球温暖化対策というのは、いくら条約を結ぼうと、それを守るか守らないかで大きく変わる。衰退する国、逆に焼け太りする国をつくりだす。

 ただこのままいけば、世界はおしなべて貧しくなるだろう。とくにグリーンバブルが弾ければ、次のバブルはもうない。

 2050年カーボンニュートラルは、どの国にとっても困難な目標だ。とくに、化石燃料に頼りきりの日本にとっては、困難きわまりない。

 国民全体が貧しくなり、基幹産業である自動車産業まで失うという大きなリスクがある。地球が暖かくなって、なにがいけないのだろうか? 私にはさっぱりわからない。

(了)

 

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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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