連載659 日本を襲う「円安地獄」: 円を持っているだけで貧しくなる! (上)

連載659 日本を襲う「円安地獄」: 円を持っているだけで貧しくなる! (上)

(この記事の初出は 11月2日)
 単なるバラマキ合戦となった総選挙が終わり、日本は新時代を迎えることになった。しかし、先行きは最悪である。「国民の信認を得た」とはいえ、岸田文雄政権には、なにより将来に対するビジョンがない。「新しい資本主義」などと言っても中身は空っぽだ。となると、日本はこのまま、ずるずると経済衰退を続けていくだけになるだろう。  日本の経済衰退に拍車をかけるのが、“悪い円安”である。デフレはすでにインフレに転換し、この先はスタグフレーションになるのは間違いない。もう、円を持っていてはいけない。

 

「悪い円安ではない」と言い放つ日銀総裁

 総選挙の結果に驚きはないが、先日の日銀の黒田東彦総裁の発言には驚いた。

 10月28日、金融政策決定会合後の記者会見で、1ドル=114円台まで円安が進んだ最近の為替相場について、「“悪い円安”ではなく、日本経済にとってマイナスになることはない」と言い放ったのだ。そして、円安は海外展開する企業の収益を押し上げる効果などが、輸入コストや家計の負担増といった「マイナスの影響をかなり上回っている」と強調したのである。

 黒田総裁の説明によると、円安が進んでも、「日本企業はコスト上昇分をマージンの圧縮で吸収し、販売価格を可能な限り据え置こうとする」ため、物価はほとんど上がらない。欧米のような急速なインフレに見舞われるリスクは「極めて限定的」という。

 ただ、それでも「じょじょに上昇していく」とし、物価上昇率の見通しを2022年度が0.9%、2023年度が1.0%としたのだった。

 しかし、現実を見れば、黒田総裁の認識は甘すぎる。というより、真逆だ。円安によるマイナスの影響のほうがはるかに大きく、日本企業は収益を上げられないどころか、資源価格の高騰に苦しんでいる。

 これがすでに物価に跳ね返り、家計を苦しめている。つまり、今回の円高は、これまでの円安とは様相が異なっている。

「円安=株高」というパターンが崩壊

 円安は、今年になってから静かに進行していた。

 それが、9月下旬以降、急激に加速した。いま振り返ると、9月下旬で1ドル=110円台を越えると、その後の1カ月で約4円下がり、114円台になった。

 これはテーパリングが始まるのを見越してアメリカの金利が上昇したからだ。アメリカの長期金利(10年国債の利回り)は、9月下旬以降、1.3%台から一時1.6%台に急上昇した。円安はこの金利上昇とほぼパラレルに進行した。

 しかし、これまでは円安が進行すると株価(日経平均)は上がったのに、今回は上がらなかった。むしろ逆に下がってしまった。

 日経平均は、9月14日には3万670円を付け、3万円の大台をクリアしていた。それが、円安進行とともに下落を始め、10月7日には2万7678円と、2万8000円台を割り込んでしまった。

 その後、じょじょに回復したとはいえ、いまも3万円台には届かないでいる。これまでの「円安=株高」というパターンは完全に崩れてしまったのだ。

(つづく)

 

この続きは11月30日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。  ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

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