連載664 「新しい資本主義」は看板だけ、 そもそも日本は自由な資本主義国ですらない (中1)
「分配」するにはまず「成長」が必要
岸田首相というのは、じつは、まったく「経済音痴」なのではなかろうか。
日本が、「失われた30年」に陥り、長期にわたって経済低迷を続けてきたことは認識している。また、その間に、格差が広がり、持たざる者の生活が苦しくなる一方になったことも認識している。しかし、なぜ、こうなったのかはまったくわかっていない。
それは、当初「分厚い中間層をつくる」と言っていたことで明らかだ。さらに、首相は「分配なくして次の成長なし」とも言った。つまり、持っている者から持たざる者に富を移せば中間層ができて、経済成長すると思い込んでいたのだ。そして、これを新自由主義から決別した「新しい資本主義」などと、いま思い返すとあまりにも恥ずかしいことを主張したのだった。
言うまでもないないが、なにかを分配するには、まずそのなにかを生み出さなければならない。なにも生み出していないのに、単に富裕層から貧困層に富を移転させることは、資本主義そのものの否定である。これでは、社会主義、共産主義になってしまう。
つまり、なにがあっても経済成長が先だ。それがなければ、なにをしようと、社会は貧しくなっていくだけである。
こうした点を指摘され、その後、首相は「成長なければ分配なし」と言い換えた。「成長の果実を、しっかりと分配することで、初めて、次の成長が実現」すると言うようになった
しかし、それでもなお、これまでの日本の経済政策を新自由主義と思っている点で、首相は完全に間違っている。
そもそも新自由主義はそんなに悪いのか?
日本では、新自由主義が、格差を生み出した元凶として批判対象になっている。左翼はもちろん、全野党、与党まで、これを批判している。そればかりか、エコノミスト、学者までが、新自由主義を問題視している。
もちろん、批判したり、問題視したりするのは構わない。しかし、その対象が日本の経済政策であるとなると、この人たちはモノを知らないバカか、それともなにか別の意図でそう言っているのかと思ってしまう。
そこでまず、「新自由主義」(neoliberalism)とはなにかを、ここで確認してみたい。
辞書的に定義すると、「政府などによる規制の最小化と、自由競争を重んじる考え方」(デジタル大辞泉)、「20世紀の小さな政府論」(知恵蔵)などとなる。
つまり、新自由主義とは自由な経済活動を最善とし、経済に対する政府の介入を否定する考え方である。そのため、規制緩和と自由競争を重視し、政府は極力「小さな政府」でいいとするというのが、新自由主義である。
(つづく)
この続きは12月7日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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