連載677  “環境少女”の言うことを聞いてはいけない!  アメリカとドイツ(欧州)が陥ったインフレの罠 (上)

連載677  “環境少女”の言うことを聞いてはいけない!
 アメリカとドイツ(欧州)が陥ったインフレの罠 (上)

(この記事の初出は2021年11月23日)

 最近のアメリカやドイツをはじめとする欧州諸国のインフレの一因に、地球温暖化防止のための環境対策が挙げられる。環境投資をしすぎたために化石燃料開発に資金が回らず、これが資源価格の高騰を招いている。アメリカではガソリン代が高騰し、ドイツは停電危機に陥っている。
 つまり、環境少女”グレタ・トゥンベリさんの言うことを聞いていたら、経済は崩壊し、文明は後退し、人々の暮らしは貧しくなっていくだけになる。
 地球温暖化は待ったなしかもしれないが、対策を急ぎするとひどいことになる。ただ、それでも地球温暖化対策は進んでいくのだろう。

 

バイデン大統領の記録的な支持率低下

 バイデン大統領の支持率が、ついにトランプ前大統領以下になった。「USAトゥデイ」と「サフォーク大学」の最新の調査では38%、「ワシントン・ポスト」と「ABCニュース」の調査では41%である。これは、就任以来最低で、両調査とも不支持率は50%を超えている。
 大統領ばかりか、副大統領のカマラ・ハリスの支持率も史上最低とも言える20%台で、もはやバイデン政権はアメリカ国民の信頼を失っている。
 この記録的な支持率低下の原因は3つ考えられる。
 1つ目は、新型コロナウイルス対策が機能せず、再び感染拡大に転じてしまったこと。2つ目は、アフガンからの撤退に失敗したように外交ミスが続いたこと。3つ目が、止まらないインフレである。
 このうちやはり、インフレによる国民生活の困窮がいちばんの原因だ。
 アメリカのガソリン価格は、もともと日本より4割は安い。それが、昨年の1ガロン(約3.8リットル)2.18ドルから、今年の夏には3ドルを超え、最近は4ドルに迫っている。クルマ社会のアメリカではガソリンは水みたいなもの。その価格が1年で約2倍になれば、国民の不満が一気に高まるのは当然だ。
 しかも、アメリカは産油国だから、ガソリン代の高騰はシャレにもならない。

なぜインフレ(物価上昇)は止まらないのか?

 石油価格ばかりか、あらゆる資源価格、そして日常物価も上がり、いまのアメリカはインフレのまっただ中にある。10月の消費者物価指数は、前年同月比で6.2%も上昇し、およそ31年ぶりの高水準になった。
 なぜ、物価上昇は止まらないのか? その理由をまとめると、次の3つになる。
 1つ目の理由は、旺盛な個人消費の復活だ。
 ワクチン接種が進むとともに、行動制限が緩和され、アメリカ国民はいっせいにモノやサービスを買うようになった。なにしろ、コロナ禍の最中、アメリカ政府は給付金を連発したほか、大幅な生活支援のバラマキを行なった。日本の場合はたった10万円の給付金でも、その7割が貯蓄に回ったとされるが、アメリカ人は、モノやサービスを買いまくることになった。
 2つ目の理由は、コロナ禍で常態化してしまったサプライチェーンの混乱だ。テレビニュースでもたびたび取り上げられているが、いまやロサンゼルス港の港外には、中国などからの製品を満載したコンテナ船が、何百隻も入港待ちをしている。この状況は、半年は改善されないという。
 日常品以外のサプライチェーンも混乱している。半導体は半年以上も品不足が続き、世界各国で取り合いになっている。
 3つ目の理由は、これがもっとも重要だが、資源価格の上昇である。石油をはじめとする資源は、現在、世界中で奪い合いになり、その価格高騰が、日常品の価格高騰を招き、インフレを増進させている。
 そこで、なぜ原油価格がここまで高騰したのかと考えると、「グリーンニューディール」(再生エネルギーへの転換、EVの導入などを含めた地球温暖化防止対策)に行き当たる。

再生可能エネルギー転換が招いた価格高騰

 ここ数年、地球温暖化防止のために、各国で再生可能エネルギーへの転換に対して、多額の資金が投入された。アメリカは、トランプ前大統領が乗り気でなかったが、バイデン大統領になって一気に変わった。バイデン大統領は、経済政策の柱に「グリーンニューディール」を掲げた。
 欧州、とくにドイツでは、これまで徹底した再生可能エネルギーへの転換政策が取られてきた。化石燃料、原子力から、太陽光、風力などへの大転換である。その結果、ドイツの 2020年の総電力消費における再生可能エネルギーの割合は約46%に達するまでになった。
 しかし、その一方で化石燃料開発には、ほとんどおカネが回らなくなった。結果的に、ドイツの電気価格、ガソリン価格は上昇してしまったのである。
 最近では、石油メジャーも化石燃料への投資をやめ、「ESG投資」(Environment、Social、Governance)に注力するようになった。そんななか、コロナ禍となり、そこからの回復過程でエネルギー需要が高まったのだから、石油や天然ガスの価格が上がるのは当然の成り行きと言えるだろう。
 これを喜んでいるのは、ロシアやOPECなど石油産出国だけ。わが国をはじめとしたエネルギー輸入国は、インフレに苦しむことになった。

日本には戦略的な原油高騰対策がない

 岸田文雄首相は、10月の段階で、「主要産油国に増産を働きかけている」と発言した。しかし、その後、メディアがサウジなどを取材すると、そんな働きかけなど一切なかったことが判明、嘘がバレてしまった。
 日本の政治家は誰も彼も、なぜこうも嘘つきなのか。
 ガソリン高騰に対して、岸田内閣が取った政策は、元売りに対して価格が170円を超えた場合に最大5円まで補填するというものだった。しかし、日本には豊富な石油の備蓄がある。これを放出したほうが、税金を使わずに済むのに、これをしなかった。
 そうしたら、11月20日になって、アメリカは、日本と韓国に対して、石油の国家備蓄の余剰分を市場に放出するように要請してきた。要するに、アメリカのお墨付きがなければ日本はなにもできないのである。

(つづく)

 

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

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