連載757  ウクライナ戦争“最悪のシナリオ” 長引けばアメリカは覇権を失いドルは暴落する (中2)

連載757  ウクライナ戦争“最悪のシナリオ” 長引けばアメリカは覇権を失いドルは暴落する (中2)

(この記事の初出は3月29日)

 

日本も経済封鎖にあったが4年持った

 経済制裁と言えば、やはり、第2次大戦時のわが国のケースが想起される。当時の大日本帝国は、アメリカ、英国、中華民国、オランダ(ABCD包囲網)から経済封鎖され、海外資産の凍結、主要品目の貿易禁止、通常の送金禁止などの処置を受け、アメリカからは満州と南方からの完全撤兵を迫られていた。
 これに軍部がキレて戦争を始めた結果、GDPの33倍、国家予算の280倍の戦費を費やし、300万人以上の戦死者を出した後に、大日本帝国は崩壊した。
 しかし、そこに至るまでに、約4年の歳月が費やされている。
 現在では、北朝鮮、イラン、キューバ、ベネズエラなどが経済制裁を受けている。クリミア併合後のロシアもそうだ。しかし、いずれの国も崩壊には至っていない。
 3月24日、NATO加盟国、G7各国はブリュッセルで首脳会合を開き、ウクライナ戦争の対応を協議し、経済制裁をさらに強化することで一致した。しかし、具体的なことはなにも決められなかった。
 ロシアが化学兵器、核兵器を使った場合どうするかという、もっとも深刻な問題に関して議論があったかどうかも定かではない。経済制裁を強化するぐらいでは、目の前の戦争は終結しない。

 

メディアが言う「国際社会」はどこにある?

 日本のメディアは、「国際社会」という言葉が大好きで、「ロシアの非道を国際社会は一丸となって非難しています」などと報道しているが、ここで言う国際社会がなにを指すかは極めてあいまいだ。
 今回の経済制裁を見ると、参加国は世界196カ国中48カ国である。アメリカをはじめとするG7はみな参加しているが、その足並みはバラバラだ。さらに、中国、インド、ブラジルなどの大国も参加していない。制裁参加国の人口を足すと約12億人で、これは世界の全人口約78億人に対して2割にも達していない。
 世界人口の2割未満がなぜ、国際社会なのだろうか?
 日本はアジアの国である。このアジアにおいて、ロシアに対する経済制裁を発動したのは、日本と韓国、台湾、シンガポールだけだ。3月2日の国連総会の緊急特別会合における「ロシア非難決議案」には、ベトナムとラオスを除くすべてASEAN諸国が賛成をしたが、経済制裁を実施したのはシンガポールのみだ。
 結局、日本が見ている国際社会というのは、欧米の民主主義国家だけにすぎない。

 

一見厳しく見えても「抜け穴」だらけ

 今回の経済制裁は、まとめてみると次の4点である。

①SWIFT(国際的な決済ネットワーク)からロシアの銀行
を除外、ロシア中央銀行の資産凍結
②ロシアに対する輸出入規制 
③最恵国待遇の取り消し
④プーチン政権に近い富豪(オリガルヒ)の資産凍結

 これだけ見ると、かなり厳しい措置と思えるが、じつは、「抜け穴」だらけだ。その抜け穴の最大のものが、ロシアのLNG・原油の輸入禁止の足並みが揃っていないことである。
 ランド研究所が、ロシア経済の最大の弱点としたLNG・原油の輸入をストップできないのである。ドイツやイタリアはロシアのエネルギー資源への依存度が高すぎて、これをストップすると発電量が半減し、経済が成り立たなくなってしまう。したがって、いずれストップすると言うことしかできない。まさに「口だけ」である。
 日本にしても、輸入LNGの10%がロシアからであり、そのほとんどを樺太のサハリン2から輸入している。もし、これを止めるとなると、代替輸入を行わなければならず、そうすると、コストはサハリン2の4、5倍に跳ね上がる。つまり、電気料金が一気に上がる。

 


(つづく)

 

この続きは4月29日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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