連載762 日本のメディアは偽善者すぎる なぜイーロン・マスクは「長生き」に反対なのか? (下)
(この記事の初出は4月5日)
絶対に長生きしたくないと自ら宣言
将来的に、それがいつになるかはわからないが、少なくとも「シンギュラリティ」(2045年)以後の世界では、人間の死生観は大きく変わるはずである。
とはいえ、ヒトが永遠の命を持つことは、生命の倫理に反する。ヒトは必ず死ぬからこそヒトである。そして、自然に訪れる死を受け入れ、無理やり長生きしてはいけない。
前記した対談を紹介した記事のまとめとして、イーロン・マスクの次の言葉が強調されている。
“I do think that having a good life for longer is better ? we want to address things that can happen to you when you’re old, like dementia, that’s important ? but I don’t know, definitely don’t “want to live forever.
(いい人生をより長く生きることは、とてもいいことだと思います。認知症のような老化に伴う問題にも取り組んでいきたい。それは、重要なことでしょう。しかし、どうだろう。私自身は絶対に永遠には生きたくないのです)
日本のメディアの無責任な「長生き礼賛」
さて、私がこのようなイーロン・マスクの考えに深く共鳴するのは、日本でこのような考え方を表明する人間、メディアがほとんどないからだ。イーロン・マスクは、なにも奇抜なことを言っているのではない。ごく、当たり前のことを言っているだけだ。
しかし、日本のメディア空間においては、「ヒトは長生きをすべきではない」というようなことを言うことはタブーになっている。メディアは常に長寿者を持ち上げる。古くは「金さん銀さん」が長寿のアイコンとして、メディアで大いにもてはやされた。
日本のメディアが大好きなのは、例えば、長生きをしている有名人を取材し、長生きの秘訣を記事化、番組化することだ。こうして、人間誰もが長生きを望んでいることを前提として、記事や番組はつくられる。
しかし、これは高齢化社会の真実ではない。高齢者が長生きできるのは、それを支える下の世代があるからであり、そこにスポットを当てれば、長生きは賞賛すべきことではなくなる。
しかも日本の場合、長生きをしている高齢者の多くは健康ではなく、施設や病院にいて、その介護費、医療費は莫大である。その負担はすべて現役世代がまかなっている。
なぜ、現役世代が懸命に働いて高齢者の生活を強制的に支えなければならいのか、合理的な理由はどこにもない。
メディアが報道するのは健康な人間だけ
イーロン・マスクが長生きを否定しながらも、語っていないことがある。それは、長生きが悲惨であるという現実だ。毎年、「敬老の日」が来ると、メディアは100歳を迎えた「百寿者」(センテナリアン)を取り上げ、その元気な姿を報道し、長寿の秘訣として、毎日どんな暮らしをしているのか?なにを食べているのか?などを紹介する。
しかし、メディアに取り上げられるセンテナリアンは、健康な人間だけで、その向こう側には、何千、何万という不健康者がいる。寝たきりになって、ただ生かされているだけで100歳を迎える高齢者のほうが圧倒的に多いのだ。
日本人の平均寿命は世界トップクラスである。男性が81.64歳で世界2位(1位はスイス)、女性が87.74歳で世界一だ。しかし、平均寿命の前に健康寿命があり、それは平均寿命より10年ほど早く訪れる。
つまり、健康寿命が尽きた後は、老化がいっそう進み、日常生活に支障が出る。認知症が進んだり、足腰が衰えて歩くのがつらくなったりし、最終的に「寝たきり老人」になる人は多い。じつは、日本は世界一、寝たきり老人が多い国である。
(つづく)
この続きは5月6日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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