連載860 加熱する食料投資とフードテック投資 世界的な「食料危機」は日本も襲うのだろうか?(上)

連載860 加熱する食料投資とフードテック投資
世界的な「食料危機」は日本も襲うのだろうか?(上)

(この記事の初出は8月30日)

 「猛暑の夏」が終わると、「値上げの秋」がやって来る。その値上げの中心は食料品だ。いまや、世界中で「食料危機」が叫ばれている。
 しかし、いくら「先進転落国」となったとはいえ、スーパーに行けばモノがあふれているので、日本人に危機意識は薄い。コロナ禍、ウクライナ戦争、インフレと、食料危機の原因はいくつかあるが、最大の原因は地球温暖化による「気候変動」である。
 このままいくと、この秋から危機は本格化し、来年はさらに深刻な事態になるだろう。そのため、投資家は農産物そのものから食料関連株にいたるまで食料に関するものならなんでも買い占め、さらに「フードテック」ビジネスにどんどん投資している。
 はたして、食料危機は日本も襲うのだろうか?

 

ITハイテク投資よりフードテック投資

 いま、世界中の投資家たちが農産物を買い漁っている。そのため、価格はどんどん上昇している。また、食料供給に携わる企業の株も買われ、ハイテク企業株以上に値上がりしている。
 さらに、今後、間違いなく成長するとされるフードテック・ビジネスへの投資も加熱している。
 私が知っている若い投資家たちは、これまで主にIT関連のスタートアップに“シード投資”をしてきたが、それをフードテックのベンチャーに切り替えている。
 フードテックといっても、その範囲は広く、ともかく食料にかかわるベンチャーなら、なんでもありといったところだ。ブームの「代替肉」「昆虫食」「陸上養殖」など、食料生産に直接かかわる川上分野から、「スマートキッチン」「特殊冷蔵」「フードロス削減」など、食料品関連の川下分野まで、新しいアイデア、技術を求めて情報を収集している。
 こうしたことの背景には、もちろん、いま世界的に叫ばれている「食料危機」がある。
 日本は「先進転落国」となったとはいえ、スーパーに行けばモノがあふれている。そのため、日本人は食料品の値上げには敏感に反応するが、食料危機という大きな問題に対しての危機意識は薄い。
 しかし、最近の食料危機はこれまでの食料危機とは違い、今後、本当に深刻化する。

世界人口の約4割がまともな食事をとれない

 食料価格は2021年に23%上昇し、これまで十数年間続いてきた価格安定期が終わった。そして今年、さらに上昇を続けている。 
 2021年まで、長期的な食料消費ニーズを満たすことができない人の数を指す「栄養不足水準」は、ほとんど変化しなかった。ところが、2021年からは上昇の一途となっている。
 国連のWFP(国連世界食糧計画)などの諸機関が合同で発表した『2022年版・世界の食糧安全保障と栄養の現状』によると、2021年現在、飢餓に苦しむ人口は、全世界で7億6800万人(世界の全人口の9.8%)。飢餓は免れているものの十分な食事をとることができない人々は、約23億人いるとされている。じつに、世界人口の約4割の人々がまともな食事をとれない窮状にあえいでいることになる。
 まさに、食糧危機は現実であり、今後も世界人口は増え続けるので、この危機はさらに深刻化する。国連の人口推計では、現在約80億人の世界人口は、2050年には96億人に達し、その後100億人前後で推移していく。

ウクライナ戦争が食糧危機を招いた?

 今回の食糧危機の原因について、日本人は、ウクライナ戦争によるものが大きいと思っている。コロナ禍によるサプライチェーンの混乱やインフレによる食料品価格の高騰が起こり、それにウクライナ戦争が拍車をかけて、世界が食糧危機に陥っていると思っている。
 ロシアとウクライナは、世界的な小麦輸出国である。FAO(国連食糧農業機関)によると、ロシア産小麦の輸出シェアは19%と世界最大で、ウクライナ産の9%と合わせると、全世界の小麦輸出の約3割を占める。これが、ロシアに対する経済制裁と、ロシアのウクライナ侵略で、おおかたストップしてしまった。
 とくにロシアがウクライナの港湾を占拠し、黒海周辺の船舶の航行を阻止したことは、ウクライナ産の小麦を中心とした穀物の海上輸送を不可能にしてしまった。
 そのため、国連とトルコが仲介に入って、ようやく輸出再開にこぎ着けたが、この間、輸入側のアフリカ諸国などで、食糧危機が発生したのは言うまでもない。
 こうしたニュースばかりに接すれば、誰もが、食糧危機はウクライナ戦争のせいだと思い込む。しかし、実際はそうではない。もっと大きな原因がある。
 それはウクライナ戦争が起こる前から、農産物の価格は高騰していたからだ。モノが不足すれば価格は高騰する。農産物の価格高騰を招いたのは、農産物の不作であり、それを招いたのは、地球規模で進む温暖化による「気候変動」である。


(つづく)

この続きは9月28日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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