津山恵子のニューヨーク・リポート
Vol.2 「新たな戦前」への動きを見逃すな 米国が種をまいてきた
2022年暮れの「徹子の部屋」から。 黒柳徹子「来年はどんな年になるでしょう」 タモリ「誰も予測はできないですよね。でも、なんていうのかな、新しい戦前になるんじゃないでしょうか」
タモリの発言は、SNSでバズった。ロシアによるウクライナ侵攻、安倍晋三元首相の殺害事件を経た2022年。少しでも穏やかな新年を誰もが願う中、「戦前」に突入するという爆弾発言だった。
しかし、新年早々、彼の予想は的中した。1月13日、岸田文雄首相が、バイデン米大統領とホワイトハウスで会談したのは、そのハイライトだ。
バイデンへの手土産の準備は、年末に着々と進んでいた。まずは、増税を伴う防衛費の増額。国内総生産(GDP)比で1%強だったが、2027年度までに2%と、単純に倍増にする目標だ。この2%が唐突で、「数字ありき」だと批判を浴びている。
また、従来、日本の戦力は「防衛」のためだったが、「敵基地攻撃能力」(政府は「反撃能力」と説明)を盛り込むという。相手が攻撃する気配を見せたら、攻撃をしていいという解釈だ。

さらに、日米首脳会談直前の1月11日、米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)が奇妙なリポートを公開した。中国が台湾に侵攻した場合の24通りのシナリオを発表したものだ。大半のシナリオで中国の作戦は失敗に終わるが、台湾防衛の代償は高く、「日米両国は数十隻の艦船、数百機の機体、数千人の隊員を失うだろう」とする。国内の米基地には、日米の機体の残骸が並び、負傷者は数百人、と生々しい記述もある。
日米首脳会談で岸田首相は、「昨年12月に発表した新たな国家安全保障戦略等に基づき、反撃能力の保有を含む防衛力の抜本的強化および防衛予算の相当な増額を行っていく旨述べた」(外務省発表)。バイデン大統領は、全面的な支持を示した。 「アメリカは、これを待っていたのだ」 ニュースに接し、目から鱗の思いだった。 「ウクライナの次は、台湾かもしれない」(ウクライナを1月に訪れたリンゼイ・グレアム上院議員)と、ワシントンの誰もが認識している。岸田首相は、日本の安全保障戦略をより強化し、米国とともに戦うという貢物を彼らに差し出した。そして、日本が新たに買う武器は、全て米国製だ。米国の軍事企業が潤い、米国経済の下支えをする。
戦後78年続いた平和な「戦後」を終わらせ、日本は「新たな戦前」に突入する。そして、CSISのリポートなど、「戦前」への準備を強力に支えてきたのは、私たちの隣人、米国である。


津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。
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