連載945 世界の街角から消えた日本人 いよいよ日本は本当に没落するのか? (完)
現状認識も治療法も間違えている専門家
もはや「安い日本」は当たり前になった。しかし、それもじきに終わる。「コロナ禍」「円安」「インフレ」のトリプルパンチに見舞われた日本は、この先も、方向性なき衰退を続ける。スタグフレーションが際限なく続いていく。
最近、第一生命研究所の首席エコノミスト永濱利廣が書いた『日本病??なぜ給料と物価は安いままなのか』(講談社現代新書)という本が話題になり、そのなかで、永濱氏は、「日本病」(=長期低迷)を治すには、「流動性の罠」を解消すればいいと提唱している。
彼が言う「流動性の罠」とは、元米国財務長官サマーズ氏などが言い出したことで、その解消策とは、「財政出動+減税」である。
しかし、そんな経済政策をいくらしても、日本病は治らない。なぜなら、日本が陥っているのは流動性の罠ではなく、バラマキ(財政出動)をやりすぎて企業がそれに甘え、世界で稼ぐ力を失ったという、あまりに当たり前の現実だからだ。
日本の衰退は、日本企業の衰退であり、時代に乗り遅れて競争力を失ったのが原因だ。
もっと言えば、日本は資本主義自由経済を捨て、社会主義統制経済をやるようになって、成長しなくなったのである。それに生産年齢人口の減少、高齢化が拍車をかけた。
永濱氏のような現状認識が完全に間違っていて、そのうえで、とってつけたような経済解説をしている専門家がいる限り、日本は本当にオワコンになるかもしれない。
社会主義の国は経済成長をしない
前にも紹介したが、『国家はなぜ衰退するのか』(ダロン・アセモグル、ジェイムズ・Aロビンソン著 鬼澤忍訳)では、政治と経済のシステムが国家の衰退を招く主因としている。
システムが強権国家、独裁国家のような国、社会主義の国は、おしなべて経済成長をしない。するのは、人々が自由に市場活動ができる国だというのが、彼らの結論だ。
日本の場合、バブル崩壊以後、国がバラマキにより企業と国民の救済をやりすぎ、その結果、経済が社会主義統制経済になってしまって衰退した。
いまだに、“お花畑”論客が「新自由主義」批判をするが、日本がそんな英財政策をとったことは1度たりともない。
先進国転落からハイパーインフレへ
それにしても、誰がいったい、国債の際限なき発行を止めるのか?
いまの日本の政治家の誰一人として、それをする気のある人間はいないだろう。むしろ、もっと国債を刷れという政治家ばかりだ。
こうして、国債が際限なく発行され、それを日銀が引き受ける「財政ファイナンス」が進めばどうなるか?
もはや言うまでもない「その日」がやってくる。それは、思ったより早い、あと2、3年ぐらいのことではないだろうか?
今年の正月に、日本人観光客の姿が世界から消えたことは、こうしたことの前触れではないのか。そんなふうに私には思えてならない。日本は先進国から転落するばかりか、無能政府によって戦争を経ずにハイパーインフレに襲われる。こんなことは歴史上ありえななかったが、それがこの日本で起こるのだ。
いまはどうか、これが私の「妄想」で終わってほしい、現実にならないでほしいと願うばかりだ。この後、日本に戻って、私の認識が間違っていることを証明してくれる、なにか画期的な出来事が起こってほしい。
2023年は、そんな年になってほしい。
(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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