連載1048 「プリゴジンの乱」の行方は? 日本の報道ではわからないロシアの現実 (下)

連載1048 「プリゴジンの乱」の行方は?
日本の報道ではわからないロシアの現実 (下)

(この記事の初出は2023年6月27日)

 

プーチンの汚れ仕事を一手に引き受ける

  エフゲニー・プリゴジンは、現代の「掟の中の首領(ドン)」のトップである。プーチンと同じセントピーターズバーグ(サントペテルブルグ)の出身で、恐喝、傷害などのチンピラ行為で投獄生活を送り、レスランビジネスで一発当てて、のし上がった。
 使い古された錆びたボートを改修し、「ニューアイランド」と呼ばれる水上レストランをつくると、これが人気を呼んで、プーチンが訪れるようになり、やがて2人は親密になった。このレストランには、ブッシュ大統領も訪れたことがある。
 プーチンと親密になった後、プリゴジンはあらゆるビジネスに手を広げた。麻薬、売春、恐喝、賭博、暗殺まで、それこそなんでもあり、プーチンの汚れ仕事をすべて引き受けた。
 民間軍事会社「ワグネル」は、2014年のウクライナ争乱のときに設立されたもので、その構成員(傭兵)は、みな囚人だ。彼らは、アフリカのコンゴやマリ、中東のシリアなど世界中に派遣され、正規軍ではできない殺戮、略奪を行ってきた。
 また、プリゴジンはネット企業を持っていて、そこで大勢のハッカーを雇っている。彼らは、ヒラリー・クリントンにサイバー攻撃をかけて人気を失墜させ、トランプを大統領にしてしまったのだから、プリゴジンは世界を動かすほどの力を持ったことになる。

溺愛の一人娘とバフムートの激戦が鍵?

 セントピーターズバーグの中心街に、2022年11月、ワグネルは初の公式オフィス「PMCワグネル・センター」を開設した。報道写真を見ると、ビルの正面には巨大な液晶ビジョンが設置され、ロシア軍を表す「Z」の文字が掲げられている。
 まさに、ワグネルはロシアに忠誠を尽くす組織だということを表している。
 それが、なぜ、反乱を起こしたのだろうか?
 ロシアのメディアは、このワグネルのビルの家宅捜査で、4800万ドル(約68億円)相当の現金が見つかったと伝えている。不正蓄財をしたというのだ。
 それにしても、プリゴジンはなぜプーチンを直接批判したのだろうか? そして、突如、反乱を中止したのだろうか? 稀代の悪党だから、プーチンの秘密を握り、なんらかの確証がなければ反乱など起こさないはずだ。
 また、引くにしても、取引条件がよほどのことでなければ引かないだろう。甘ったるいメディア報道は一切信用できない。プリゴジンには溺愛の一人娘がいる。この娘の命がかかっていなければ、粛清間違いない反乱を中止するはずがない。
 それにしても解せないのは、なぜ、ロシア正規軍とワグネルは、さほど重要な戦略拠点でもない東部バフムートで、ウクライナ軍と死闘を繰り返したのか。バフムートが重要な要衝というのは、メディアと専門家(?)が勝手につくり上げたフェイクだ。ここで、ワグネルは戦闘員2万人を失ったとプリゴジンは述べている。
 反乱の鍵は、バフムートの地獄の市街戦にあったのだろうか。


(つづく)

この続きは7月25日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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