New York, New Japanese Artists 1
ニューヨークの精鋭日本人アーティスト1
篠原乃り子 すべてがアートに
現代美術(コンテンポラリーアート)は欧米の美術史に沿い欧米作家が中心となり展開してきた。戦後ヨーロッパからの近代美術がアメリカのアート表現に火をつけて、現代美術シーンの軸は完全に移行し、刺激的で意欲的な「アメリカ現代美術」がニューヨークで確立した。現在では草間彌生、ヨーコ・オノ、村上隆を筆頭に奈良美智、宮島達夫、塩田千春など多くの日本人作家も世界を舞台に活躍している。
1960年代からニューヨークを拠点とする日本人アーティストの中でも篠原乃り子ほどパワフルでファッショナブルなアーティストは類を見ない。

2006年元旦から描き始めた「キューティー」シリーズが注目され、代表作となる。「キューティー」は分身として描かれ、登場人物の「ブリー」(英語でいじめっ子)との日常生活が時に辛辣で、時に愛に溢れた物語が篠原の軽快な筆致で展開する。一連の作品は2014年にアカデミー賞にノミネート、2016年にはエミー賞ドキュメンタリーフィルム部門を受賞した篠原夫妻を追ったドキュメンタリー映画『キューティー&ボクサー』にアニメーションで披露され脚光を浴びる。
1953年富山県高岡市出身。1972年19歳でニューヨークに留学、アート・スチューデント・リーグに在籍するも、半年後に日本の前衛芸術の一時代を築いた後ニューヨークで精力的に制作活動する、ギューちゃんこと篠原有司男(1932年東京都出身)に出会う。その翌年、息子(アレクサンダー空海)を出産。子育てをしながら、日々のミルク代を友人に借り歩く貧困の中で制作活動を続けながら、徐々に破天荒な夫のマネージメントを手掛けるようになった。1986年にキャッツ・クラブで初個展を皮切りに数々のグループ展や個展を開催してきた。1994年には著書『ためいきの紐育』を出版。2003年と2005年、二度に渡りニューヨーク・インターナショナル・プリントセンターの『ニュープリント』展で銅版画が選ばれる。2007年、ジャパン・ソサエティで開催された『メイキング・ア・ホーム:ニューヨークの日本人現代美術家』展に出品。2016年、カナダのカールトン大学美術館で個展。2023年5月にはニューヨークのアートフェア、フォーカス・ニューヨークに篠原有司男、アレックス空海ともに展示した。

篠原乃り子は幼少時に兄姉が日曜日に通う絵画教室で見ようみまねで絵を描き始めた。作品にストーリー性を強く追う背景には、幼稚園や小学校低学年の頃、放課後に父親が経営する映画館での映画鑑賞や幼稚園児の頃から読んでいた漫画が影響しているという。小学校5年生の時に家族で訪れた名古屋の美術館で初めて見たピカソ展に強烈な印象を受けた。21世紀になってからはカラヴァッジョに惹かれて、マルタにまで足を運んだ。最近ではアラスカでオーロラを体験し、昨年ノルウェイを訪れた際にはムンク美術館以上にフィヨルドの醸し出す自然の神秘に心を奪われたという。そして近頃は、1973年からビッグ・コミックに20年以上連載された『のたり松太郎』に夢中だとも。「どうしたらこれほど素晴らしく、面白い、心がワクワクする作品ができないかな?」。

幼少時の経験やニューヨークの厳しくも楽しい日常から旅先の大自然まで、取り巻く現実と人生そのものが彼女の芸術なのだ。

梁瀬 薫(やなせ・かおる)
国際美術評論家連盟米国支部(Association of International Art Critics USA )美術評論家/ 展覧会プロデューサー 1986年ニューヨーク近代美術館(MOMA)のプロジェクトでNYへ渡る。コンテンポラリーアートを軸に数々のメディアに寄稿。コンサルティング、展覧会企画とプロデュースなど幅広く活動。2007年中村キース・ヘリング美術館の顧問就任。 2015年NY能ソサエティーのバイスプレジデント就任。
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